大谷翔平がFAに 憶測が飛び交うなか「21世紀のベーブ・ルース」の決断は? (3ページ目)

  • 取材・文/奥田秀樹

米国の人口3分の2は東部在住ゆえに──!?

 果たして大谷は球団選びで今回は何に価値を置くのか? もちろんお金は大切だ。しかしながらどの球団と契約しようと、おそらくマイク・トラウト(エンジェルス、外野手)の持つ4億2650万ドル(約645億円)の最高総額サラリー記録と、マックス・シャーザー(レンジャーズ、投手)の4333万ドル(約65億6000万円)の最高年俸記録は抜くだろう。
 
 スポーツ専門サイト『ジ・アスレチック』で移籍情報のスクープが多いケン・ローゼンタール記者は、資金力の差で「最終的にドジャース対(ニューヨーク)メッツの対決になる」と予測している。さらに2年越しの8億ドル(約1210億円)のFA補強で2023年のワールドシリーズ進出を成し遂げたレンジャーズも「うまく行ったことで、より大胆にお金を使える。ダークホースになる」と付け加えた。
 
 しかしながら過去の経緯を振り返ると、大谷が凡人にもわかりやすく、資金力で決めるという気があまりしない。最高額の名誉さえ手に入れればそれで十分なのではないか。"少しでも高額で"と、こだわるとは思えない。

 冒頭で名前を出したヘイマン記者は、中堅市場の球団にもチャンスがあると指摘する。人気者の大谷はマーケティングパワーが傑出しており、関係者の中には球団に年間3500万ドル(約52億円)の収益をもたらすと証言する者もいる。プレーオフ進出の火付け役になれば、さらに金額はプラスされる。仮に6000万ドル(約91億円)の年俸であっても、大谷の稼ぎで球団の負担額は半分以下で済む。であれば中堅市場の球団であっても手が届く。しかもこういったチームはぜいたく税の心配がいらない。今年、若手中心のチーム構成で大躍進を遂げたアリゾナ・ダイヤモンドバックス、ボルティモア・オリオールズ、シンシナティ・レッズといった球団も獲得合戦に加われば、大谷の選択肢はかなり広がることになる。

 もっとも選択肢が増えても、大谷が選べる球団はひとつだけだ。筆者が個人的に期待しているのは、大谷の二刀流を選手生活の絶頂期の今、なるべく多くの人に日常的に見てもらえる場所に身を置くこと。広い米国では東西で3時間も時差がある。ベーブ・ルースのお孫さんとして日本のメディアに何度も紹介されたトム・スティーブンズさんは東部のボストン在住ゆえ「(西部の)エンゼルスの試合はテレビでなかなか見ることができなかった」と明かしていた。米国の人口の3分の2近くが東部に住む。ゆえに多くは大谷がすごいというのを知識として知っていても、試合をきちんと見たことがない。それが現実で、野球界にとって非常にもったいないことでもある。だから筆者が選んで欲しいのは東部のチームで、全米中継の機会も多い、人気球団のヤンキースだ。
 
 1920年代にルースが王朝を築いたが、100年後、21世紀のルースが加入し、アーロン・ジャッジやゲリット・コールとともに、2009年以来15年ぶりの世界一を目指す。しかしながら米メディアで有力候補に挙げる記者は、ほとんどいない。ローゼンタール記者も「動くとは思えない。年俸35000万ドル(約53億円)以上の選手がすでに2人もいるからね。競争に参加できないことはないけど」と否定的だ。ヤンキースには、以前は「ビッグ・ボス」こと故ジョージ・スタインブレナーオーナーがいて、これはという選手は必ず獲得した。ジーターも「ビッグ・ボスが生きていたら?」との質問に「たぶん大谷の家に押し掛け、ピンストライプのユニフォームを着せるためにはなんだってやるだろうね」と答えた。しかしながら息子のハル・スタインブレナーはそんな無茶をするタイプではない。だから米メディアはヤンキースを有力候補とはしない。
 
 筆者はビッグ・ボスの魂が蘇り、大谷の家で「ヤンキースを救ってくれ」と直談判する、そんなことを期待している。

プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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