イチローがマリナーズの球団殿堂入り。安打量産の契機はMLBで出逢った「最高のノッカー」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Taguchi Yukihito

「日本ではシーズン130試合で210本のヒットを打ちました。メジャーは162試合でしたから、200本という数字は打たなきゃいけないと思わされる数字でした。そう思ったメジャー2年目には、キーラーの8年、それを超える9年という数字がものすごく遠かった覚えがあります。えらい遠い話に思えて、とても具体的に考えられる状況ではなかった。結局は1年ずつ積み上げてきて......何かに到達する時の積み重ねる感触というのは、ずっと変わらないものですね」

 たとえば、打率は上下する。下げたくないと思えば、打席に立たないことで下げずに済んだりもする。それがイチローの持ち味である積極性を殺してしまいかねない。だからイチローが野球における数字と対峙する時の原則論は、常に足し算だ。1試合でも、1打席でも多く......その結果、ヒットをたくさん打てる。そうして積み重ねていくことの重みを、イチローはずっと感じてきた。たとえば2008年に彼が発したこんな言葉からも、イチローの"足し算的発想"がうかがえる。

「去年(2008年)、僕のヒットは213本だったんですけど、メジャーで8年やって初めてだったんです、奇数で終わったのは......1年目の242本からずっと偶数だったのに、去年はいつもの年よりも1本、多く打てたんです。212本で終わるはずが、最後の打席で1本、出した。この1本は僕にとっては大きかったですね」

 1本、多く......いつもの偶数に1本足りないのではなく、いつもの偶数から1本余計に打てたと、イチローは自然にそう考えることができていた。目の前の1本を200本まで積み重ね、そして200本を超えたシーズンを1年ごとに積み重ね、それが10年まで続いた。つまりは、1+1+1+1+......=10。まさに究極の足し算である。

「まぁ(記録が)途切れる時は、いずれは来るわけですからね。50歳まで200本を続けるわけにもいかないので(笑)。僕も、途切れたあとの自分を見てみたいという気持ちはあります。ただ、途切れたあとは、もう一回、狙います」

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る