イチローがマリナーズの球団殿堂入り。安打量産の契機はMLBで出逢った「最高のノッカー」
うまいノッカーというのは、ノックを受ける相手の力量を見極めて、捕れるかどうか、ギリギリの際どいところに正確に打てるものなのだという。そして、そんなノッカーの職人芸によって、「あと一歩、あと半歩......よし、捕れた」と、目の前にぶら下げられた目標をクリアしていく選手は、そのたびに前へ進んでいく。
メジャー移籍1年目の2001年から10年連続シーズン200安打を達成したイチローこの記事に関連する写真を見る
挑み続けたシーズン200安打の重み
イチローには、"名ノッカー"がいた。
それは、メジャーでの"シーズン200安打"というイチロー専属のノッカーだ。イチローにとってはそれが、あと一歩、あと半歩の踏ん張りで届く、ギリギリの目標となっていた。そして、そんなノッカーを用意したのはイチロー自身にほかならない。イチローにとってのシーズン200安打という数字は、彼がメジャーで出逢ってしまった"最高のノッカー"だったのだ。
届くと思うと、なかなか届かない。それでも最後にはギリギリで届く。楽に届いてしまうのではつまらない。届かなければ追う気にもならない。力を振り絞れば届く可能性は生まれる──ときに吐き気をもよおし、プレッシャーに押しつぶされそうになり、恐怖を感じながら、それでもイチローは200という数字に向き合い、乗り越えてきた。
その意味合いは、同じ数字であってもシーズンによって微妙に違う。たとえば2009年、メジャー新記録となる9年連続200安打を達成した直後、イチローはこう言っていた。
「他人との、200安打を打ち続けていく競争にピリオドを打つことができたという解放感でいっぱいです。自分と戦うだけでなく、他人とも争っていかなければいけないというのが、プラスアルファ、つらかった。そこから解放されたことが何よりもうれしいですね」
イチローが最後に争った「他人」は、ウイリー・キーラーだった。その当時、彼だけが成し遂げていた『8年連続200本安打』を追いかけて、並び、ついに抜き去ったのだ。
「キーラーという人のことは、8年連続ということしか知りませんでした。ただ、球団コマーシャルの台詞が彼の言葉だったと聞いた時は、『へーっ、そうなのか』と興味が湧きましたね」
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