松坂大輔やダルビッシュ有とは違う、田中将大流「進化論」 (2ページ目)
今の田中は、日本のときよりもかなり重心が高くなっている。去年のシーズンと今年のオープン戦のフォームを見比べれば、その違いは明らかだ。マウンドの硬さのせいなのか、リハーサルと本番という時期の問題なのか、いろんな理由が考えられるのだが、想像するに、おそらく田中は歩幅を短くして、下半身への負荷を減らそうとしているのではないだろうか。だから重心が高くなっているのだ。
ポイントは、短くしているのか、短くなってしまっているのかというところにあるのだが、田中自身、日本のときよりも歩幅が短いという事実は自覚しているはずだ。歩幅が短くなれば、重心が高くなり、踏み込む足の着地も早くなって、下半身で溜めた力が上体に伝わり切らず、右腕を加速させるための時間も短くなってしまう。
昨秋の田中は上体がムチのようにしなっていたせいで、ユニフォームの背中にしわがよってしまい、18番が見えなかった。それが今では背中の19番はハッキリ読み取れる。上半身から右腕にかけてのしなりがなくなれば、球持ちも短くなり、ボールが高めに浮くリスクも増える。
思い起こせば、そのことを自覚したのは、あの瞬間ではなかったかと思い当たる日がある。
田中のオープン戦初先発が予定されていた、3月6日。
降っていたのは、雨という言葉では表現し切れない、すさまじい豪雨だった。
フロリダ州タンパのスタインブレナー・フィールドの真上には、飛行機が着陸したのかと聞き紛(まが)うほどの雷鳴が轟(とどろ)き、思わず耳を塞いでしまうほどだった。サンダーストームの襲来に警報が発令されているらしく、あちこちの携帯がビービーなっている。
この日、ヤンキースは敵地クリアウォーターに遠征して、フィリーズとのオープン戦を行なうことになっていた。
先発は田中将大。
これがオープン戦、2試合目のマウンドであり、初めての先発だった。
タンパをチームバスが出発するのは午前9時45分。
雨は止む気配もなく、ますます強くなる一方だ。この時点での予報も最悪、日本なら間違いなくビジターチームのバスが出発する前に試合中止が発表されたことだろう。
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