【WBC】選出メンバーで分かった、アメリカ代表の本気度 (3ページ目)

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu
  • photo by Getty Images

 一方、打撃陣を見ても、今回のアメリカ代表を象徴するような選手がリストアップされていました。それは、ユーティリティプレイヤーの存在です。

 今回のメンバーは捕手を除くと、10人しか野手がいません。しかも、ジョー・トーリ監督はメンバーを発表した際、WBCがオープン戦と同じ時期に行なわれるため、野手のフル出場には否定的なコメントを残しました。そのため、クリーンナップが予想されるミルウォーキー・ブルワーズのライアン・ブラウンや、ニューヨーク・ヤンキースのマーク・テシェイラなども、試合の途中で代えられる可能性が十分にあります。

 そこで重要となってくるのが、複数のポジションを守れるユーティリティプレイヤーなのです。今回のメンバーには、ふたりのユーティリティプレイヤーが選ばれました。まずひとり目は、現在、アメリカで「球界ナンバー1のユーティリティプレイヤー」と称されるタンパベイ・レイズのベン・ゾブリストです。スイッチヒッターのゾブリストは、1番から9番までどんな打順でも対応し、守ってはメジャー7年間でキャチャー以外すべてのポジションを経験。昨年もセカンドで58試合、ショートで47試合、外野で71試合と、まんべんなく守っています。

 しかもゾブリストは、単にポジションの穴を埋めているわけではありません。昨年はア・リーグ8位タイとなる39本の二塁打を放ち、出塁率.377はリーグ9位にランクイン。また、メジャー2位となる97個のフォアボールを選び、アメリカ随一の野球専門誌『ベースボール・アメリカ』では、「ジョー・マウアー(ミネソタ・ツインズ)に次ぐ、ア・リーグ2位の『ストライクゾーン・ジャッジメント(選球眼)』の持ち主」と評されました。さらに驚くべきは、2009年以降の4年間を合計した総合評価指標『WAR(※)』の値が、アルバート・プホルス(ロサンゼルス・エンゼルス)と並ぶメジャートップの『26.5』を記録したことです。一見、地味な選手ですが、いかにゾブリストがすごい選手なのか、この数値からも分かると思います。

※WAR=各ポジションの平均選手と比べ、その選手がどのぐらいチームの勝利数を上積みしたかという、セイバーメトリクスによる選手の総合評価指標。平均的な選手の4年間の合計は『WAR=8.0』。

 そしてもうひとりは、アリゾナ・ダイヤモンドバックスに所属するウィリー・ブルームクイストという選手です。かつてシアトル・マリナーズでイチロー選手とチームメイトだったので、覚えているファンもいるのではないでしょうか。実を言うとブルームクイストは、ダイヤモンドバックスでレギュラーではないのです。昨年は80試合しか出場しておらず、成績も打率.302・0本塁打・23打点と平凡なもの。しかし、ショートやサード、セカンド、そして外野でもプレイし、サブにもかかわらず『ベースボール・アメリカ』では、ヒットエンドラン・アーティスト部門のナ・リーグ3位に選ばれました。つまり、ブルームクイストという選手は、ヒットエンドランが非常にうまいのです。決して派手ではありませんが、彼のようなチームプレイに徹することのできる選手を選んだ点も、アメリカ代表の本気度がうかがえます。

 地味な中継ぎのスペシャリストや、打線の潤滑油となるユーティリティプレイヤーなど、今回のメンバーには注目すべき『名脇役』が数多く選ばれています。オールスター選手の寄せ集めではなく、バランスの良い人選をしたジョー・トーリ監督率いるアメリカ代表は本気でWBC制覇を狙っています。メンバーを見ただけで、「アメリカには勝てそうだ」と、決して侮ってはいけないと思います。

著者プロフィール

  • 福島良一

    福島良一 (ふくしま・よしかず)

    1956年生まれ。千葉県出身。高校2年で渡米して以来、毎年現地でメジャーリーグを観戦し、中央大学卒業後、フリーのスポーツライターに。これまで日刊スポーツ、共同通信社などへの執筆や、NHKのメジャーリーグ中継の解説などで活躍。主な著書に『大リーグ物語』(講談社)、『大リーグ雑学ノート』(ダイヤモンド社)など。■ツイッター(twitter.com/YoshFukushima

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