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【高校野球】幻のスクイズ、そして言えなかった「春夏連覇」 大阪桐蔭の主将・黒川虎雅、コーチの肉声で追う敗戦の全貌 (5ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Shiro Tanigami

大阪大会4回戦で大阪立命館に敗れた大阪桐蔭ナイン photo by Kyodo News大阪大会4回戦で大阪立命館に敗れた大阪桐蔭ナイン photo by Kyodo Newsこの記事に関連する写真を見る 一塁側の大阪立命館ベンチから大歓声が上がる。対照的に、大阪桐蔭ベンチは一瞬、何が起きたのかわからないという表情を浮かべていた。そして球審は、場内へ向けて判定の説明を始めた。

「バッターの足が完全にはみ出して打撃をしましたので、打者をアウトとします」

 反則打球で大津はアウト。同点スクイズは幻となり、走者はそれぞれの塁へ戻された。石田も橋本も一瞬、言葉を失った。誰も予想しなかった出来事が、この場面で起きてしまった。

 それでも、まだ二死満塁で黒川。小柄な体で、大阪桐蔭を引っ張ってきたキャプテンだ。ここで1本出れば......そんな劇的な結末をどこかで信じていた。しかし、最後まで1本が出なかった。黒川の打球はワンバウンドで投手の正面へ。投手が落ち着いて一塁へ送球し、ゲームセット。大本命・大阪桐蔭の戦いは、4回戦で幕を閉じた。

【言えなかった「春夏連覇」】

 試合後、球場の外で西谷と選手たちの取材が終わると、キャプテン・黒川による保護者たちへのあいさつが待っていた。かねて西谷が冗談交じりに「僕の言いたいことを全部言ってくれるので、監督いらずです」と言っていたほど、黒川は言葉で仲間を引っ張ってきた。最後も黒川らしく、一人ひとりへの感謝を丁寧に口にしていく。

 だがその途中、「スタンドで応援してくれた仲間だったり、父兄の皆さん、先生方に春夏連覇をしたいという言葉を言いたかったのですけど......」と言うと、言葉に詰まった。

 その言葉を聞きながら、6月に黒川と交わした会話を思い出していた。ある雑誌の企画で、選抜優勝校の主将に「夏へ向けた目標」を色紙に書いてもらうことになり、てっきり"春夏連覇"と書くと思っていた。しかし、黒川が書いたのは"粘り強く"の4文字。理由を尋ねると、黒川はこう答えた。

「もちろん『春夏連覇』と言いたい気持ちはあります。でも西谷先生から、『春は春、夏は夏で、それぞれ日本一がある』と言われました。だから、まずは選抜のことを忘れて、夏の日本一を全力で取りにいく。その結果、大阪代表になれた時に、初めて堂々と『春夏連覇』を口にしたい。そう思っています」

 しかし、大阪桐蔭史上3度目となる春夏連覇への挑戦を高らかに口にする前に、あまりにも早いゲームセットが待っていた。吉岡は本来の投球を取り戻し、小川も最後まで粘り強く腕を振った。苦しみ続けた打線にも、ようやく光が差し始めていた。歯車はたしかにかみ合いかけていた。だからこそ、この敗戦はあまりにも重かった。

 最大のライバル・履正社が甲子園への切符をつかむ一方、大阪桐蔭は新主将・小吹玲央のもと、新チームとして歩み始めた。何が足りなかったのか──。その答えを探し続ける日々が、また始まる。

(文中敬称略)

著者プロフィール

  • 谷上史朗

    谷上史朗 (たにがみ・しろう)

    1969年生まれ、大阪府出身。高校時代を長崎で過ごした元球児。イベント会社勤務を経て30歳でライターに。『野球太郎』『ホームラン』(以上、廣済堂出版)などに寄稿。著書に『マー君と7つの白球物語』(ぱる出版)、『一徹 智辯和歌山 高嶋仁甲子園最多勝監督の葛藤と決断』(インプレス)。共著に『異能の球人』(日刊スポーツ出版社)ほか多数。

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