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【高校野球】幻のスクイズ、そして言えなかった「春夏連覇」 大阪桐蔭の主将・黒川虎雅、コーチの肉声で追う敗戦の全貌 (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Shiro Tanigami

【エースの149キロが呼び込んだ反撃】

 初回に2点を失ったとはいえ、それほど重くは感じていなかった。初戦、2戦目はともにコールド勝ち。2試合で31安打29得点という数字は参考程度とはいえ、春以降の課題だった打線にもようやく復調の兆しが見え始めていたからだ。

 だが、この日は違った。2、3、4回と得点圏に走者を進めながら、あと1本が出なかった。相手の長身右腕が投じるクセ球を攻略できず、5回までわずか2安打。2点ビハインドのまま、試合は前半を終えた。

 夏特有の張り詰めた空気が漂い始めるなか、橋本が「このチームは練習試合でも後半に強いんです」と言った。

 6回表、二死二塁のピンチを迎え、石田が吉岡へ送る声にも自然と力がこもった。

「体重を乗せて、もっと前に、もっと腕も振って......ギア上げろ!」

 直後の1球は、この日一番と思える外角ストレート。打者は手も足も出ず、見逃し三振。スピードガンの表示は149キロ。この1球で流れは変わる。そう確信したくなるようなストレートだった。

 この時点で吉岡の球数は102球に達し、この回で交代となった。当然、ベンチとしてはこの試合を勝ち切り、次戦以降に吉岡の力をフルに生かしたいという思いがあったはずだ。実際、2回以降の吉岡の投球は、大いに期待を抱かせる内容だった。

 エースのベストピッチを受け、迎えた6回裏の攻撃。先頭の2番・中西佳虎が俊足を生かしたセーフティーバントで出塁。その後、一死二塁となり、打席には4番・藤田大翔。再び石田がつぶやく。

「ここで3年前の全国大会、えっぐい場外ホームラン打ったやろ。それも、わかさスタジアムとここで2試合連発や。あの時のバッティングを思い出せよ」

 中学時代から誰よりも選手を見続けてきた石田だからこその檄だった。藤田の父は大阪桐蔭野球部時代に石田と同級生で、主将を務めた人物。その元チームメイトの息子へ、石田はもう一度、力をこめて声を送った。

「ここで一本いってくれ!」

 しかし、藤田の打球は投手の足元を抜けたもののセカンドゴロ。またしても走者を残したまま、好機を逃してしまうのか......。その重苦しい流れを断ち切ったのが、5番・谷渕瑛仁だった。

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