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高校野球史に残る「炎上試合」の舞台裏を当時の武相4番・渡部おにぎりが振り返る 先輩・塩見泰隆の「バケモノ」ぶりも明かす (3ページ目)

  • 武松佑季●取材・文 text by Takematsu Yuki
  • 是永日和●撮影 photo by Korenaga Hiyori

【高校野球生活、これで終わり...? あの事件の舞台裏】

 同点の9回裏、日大藤沢の攻撃で1死満塁からインフィールドフライで2死となるも、内野手が間をつくろうとマウンドに集まっている隙にサヨナラのランナーが生還。武相サイドのタイムをかけていたという主張は認められなかった。武相、日大藤沢ともにノーシードだったことから実現した1回戦として屈指の好カードは、意外な形で幕切れとなった。

 9回表に代走を送られ、この瞬間をブルペンで迎えた渡部は当時をこう振り返る。

「僕はあまり状況を飲み込めてなかったので、これで高校野球生活が終わり......? と呆然としていました」

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 最後の夏は不完全燃焼に終わってしまった。それどころか、納得のいかないある部員の整列時の態度をめぐり、インターネットで炎上騒動に発展する後味の悪さすら残ってしまった。

「"昔は強かった"ってイメージを払拭したくて武相に来たのに、また余計なイメージをつけてしまい、後輩たちには申し訳なかったですね......。

 ひとつ言っておきたいのはネットでやり玉に挙げられた選手は、ふだんは全然そんなタイプじゃなくてめっちゃいいヤツです。ただ、野球に対して真面目で責任感が強かったから、少し熱くなってしまっただけなんです」

 燃え尽きることができなくても、仲間との絆はなかったことにはならない。

「僕らの代って仲のいい子が多くて、いまだに飲みに行ったりしますけど、この試合の話題は必ず出ますね。もう笑い話です。むしろ、あのサヨナラ負けがあったから、一生の友だちになれた気もします」

 勝利だけが部活動の本分ではない。渡部の言葉はそんな当たり前のことを思い出させてくれる。

「僕が9回表に代走で交代せずにキャッチャーをやってたら? うーん、あの緊迫した場面じゃ僕もテンパって同じようにホームを空けちゃうんじゃないかな。

 あの時は後輩がキャッチャーをやっていて、責任を感じてすごく泣いてたんです。だから、せめてその負い目は代わってあげたかった。代走さえ出されなければ......。こんなことならラントレ、もうちょっと真面目にやっとけばよかったなぁ(笑)」

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後編につづく

<プロフィール>
渡部おにぎり わたべ・おにぎり/お笑い芸人・金の国メンバー 
1994年、横浜市生まれ。小学1年から野球を始める。高校はスカウトを受けて神奈川県の名門・武相高に進学し、「4番・捕手」として活躍。1学年上の現ヤクルトの塩見泰隆や現オリックスの井口和明とともにプレーした。横浜商科大学中退後、ワタナベコメディスクールに入り、お笑いの道へ。同スクールで出会った桃沢健輔とコンビを結成し、コンビでは2022年と2024年の「キングオブコント」で準決勝進出、ピンでは2022年の「R-1グランプリ」で3位。ワタナベエンターテインメント所属。

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