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イチローと交わした言葉を胸に 男子野球部に所属する2人の女子部員が抱く、野球への飽くなき情熱

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta

2023年11月に中山志輝さんが所属する旭川東高校の野球部の指導に訪れたイチロー氏 photo by Kyodo News2023年11月に中山志輝さんが所属する旭川東高校の野球部の指導に訪れたイチロー氏 photo by Kyodo Newsこの記事に関連する写真を見る

【イチローから伝授された背面キャッチ】

 イチローが硬式野球部を指導する高校へ出向いた時、ふたりの"女子部員"に出会った。

 ひとりは当時、旭川東高校の1年生で、今は3年生となった中山志輝(なかやま・しき)さん。男子選手のなかで、彼女は選手のひとりとして活動していた。

「女子の硬式野球部がある高校でプレーするんじゃなくて、中学の時のまま、男子と一緒に野球をやりたいと思ったんです」

 そんな中山さんの希望を、旭川東の野球部はとくに議論することもなく受け入れたのだという。女子部員が在籍していたこともなく、ノウハウもない。それでも中山さんは今、男子のなかのたったひとりの女子部員として当たり前のようにプレーしている。

 現在のルールでは、公式戦に女子選手が出場することはできない。女子が中学を卒業したあとも野球をやりたいとなれば、選択肢は限られている。女子硬式野球部のある高校が増えているとはいえ、2024年1月の時点で61校のみ。

 しかもこの時には女子野球部がない高校は14県(秋田、富山、石川、三重、奈良、滋賀、和歌山、香川、徳島、鳥取、山口、佐賀、長崎、大分)にも及び、その地域の中学生が女子硬式野球部に入ろうとすれば、実家を離れて遠くの高校へ進むしかなかった。

 まして将来を見据えて大学進学を考えるならば、学業優先で高校を選ぶのは当たり前で、進学を希望した高校に女子野球部があった、という確率は極めて少ないだろう。

 だから高校でも野球を続けたい女子のなかには、公式戦に出られないことを承知のうえで男子だけの硬式野球部の門を叩くものが出てくる。練習試合なら出場できるし、実際、旭川東の中山さんは1年生の時、練習試合へのデビューを果たした。

 3年生となった中山さんは今も毎朝、誰よりも早くグラウンドへ出て個人練習に励んでいるのだそうだ。そんな姿勢を男子部員が認めないわけがない。中山さんも意気盛ん、密かに心のなかに抱くこんな目標をこっそり教えてくれた。

「もし公式戦で女子選手が出られるなら中山がレギュラーだったのになって、そう言われるくらいの選手になりたいんです」

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著者プロフィール

  • 石田雄太

    石田雄太 (いしだゆうた)

    1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。

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