イチローと交わした言葉を胸に 男子野球部に所属する2人の女子部員が抱く、野球への飽くなき情熱 (3ページ目)
愛工大名電2年の口田美羽さん photo by Ichikawa Mitsuharu(Hikaru Studio)この記事に関連する写真を見る 甲子園出場が現実的な強豪校の男子選手を相手にするとあっては、口田さんにはキャッチボールさえも容易ではない。球の強さ、距離、コントロールなど、男子部員と渡り合うにはまだまだ実力不足は否めないからだ。だから口田さんはレベルの高いバッティングやキャッチボールについていくため、ひとりでティー・バッティングを繰り返し、ゴロを打つ練習をしてきた。
さらに、壁当てをして強いボールが投げられる練習を続けている。そういう単調な練習に取り組む口田さんを、愛工大名電の倉野監督はこんなふうに見ていた。
「彼女の成長ぶりはすばらしいと思います。それもきちんと努力をして、その努力に見合う上達をしているんです。だからほかの部員に言うんですよ。『おまえたちな、甲子園、甲子園って言うとるけど、彼女は甲子園という目標がないのにあれだけ努力してるんだぞ。甲子園で試合に出られないのにあれだけ野球の練習をするってどういうことだと思う? 野球が好きだからだよ。おまえたちにそれだけの気持ちはあるのか』って。
彼女にはうまくなりたいという気持ちがあるし、自分がこれよりも先へ行くためにはこれができないとダメだということも全部わかっている。だからあんなに頑張れるんでしょう」
毎年、イチローが率いる神戸智辯と戦う高校女子選抜チームは、全国の女子硬式野球部から選手を選んでいる。ただ、男子の野球部で練習に励む女子にもセレクション等を通じてチャンスがあってもいいのではないか......そんな話を口田さんに振ったら、彼女はこう言って、ニコッと笑った。
「練習試合でホームランを2本打てば、もしかしたら選んでもらえるかもしれませんね」
著者プロフィール
石田雄太 (いしだゆうた)
1964年生まれ、愛知県出身。青山学院大卒業後、NHKに入局し、「サンデースポーツ」などのディレクターを努める。1992年にNHKを退職し独立。『Number』『web Sportiva』を中心とした執筆活動とともに、スポーツ番組の構成・演出も行なっている。『桑田真澄 ピッチャーズバイブル』(集英社)『イチローイズム』(集英社)『大谷翔平 野球翔年Ⅰ日本編 2013-2018』(文藝春秋)など著者多数。
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