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病と闘う元大阪桐蔭・福森大翔「野球で言うなら、9回2アウト」でも「希少がん患者の声を届けたい」 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

【好きな言葉はパイオニアの真意】

 人々の病を治し、健康を支えることを自らの使命のように語る福森に、どうしても聞いてみたいことがあった。

 今回、全4回にわたって掲載した第1回目の冒頭で触れた12年前の高校野球雑誌には、大阪桐蔭の紹介ページがあり、メンバーのプロフィールやアンケートが掲載されている。

 福森の欄には<野球以外の特技:ラグビー><尊敬する人:福森健(父)><好きな食べ物:オムライス><将来の夢:野球の仕事>などが並んでいた。そしてもうひとつ「好きな言葉」という質問に対し、多くの選手が「鍛錬千日勝負一瞬」「一球同心」「感謝」「日々成長」などと回答しているなか、福森は「パイオニア」。

 今回、福森への取材の準備を進めるなかでその言葉を目にした時、なんとも言えない気持ちになった。まさに今、希少がんと闘いながら、新たな治療法を求めて、道なき道を進んでいる福森の姿が、その言葉と重なったからだ。

 そもそも、なぜ「パイオニア」という言葉を選んだのか。

 これには「どうだったんですかね」と誌面に目を落とし、「言葉の意味もちゃんとわからず、なんとなく書いたのかも......」と首をひねった。12年前のアンケートだ。覚えてなくても不思議ではないが、根が真面目な男は答えを必死に探そうとしていた。そして福森が口を開いた。

「関係するかわかりませんが、子どもの頃から『自分だけがよかったらいい』という考えは嫌だったんです。たとえば、先生が授業中に『このあたりがテストに出ます』と言ったら、それを聞いてなかったヤツにも教えたくなるタイプでした。別にいい格好をするわけじゃなく、みんなでよくなりたいというのが根本にあって、自分だけいいというのは、逆にストレスになるんです」

 神社や寺で願い事をする時も、周りの幸せを祈ってから自分の願いを浮かべると言った。私の頭のなかに、福森が今も尊敬してやまないと語るラガーマンの父と、その父が語ったラグビーの精神を表す"あのフレーズ"が浮かんできた「One for all, All for one」。それを伝えると、今度は福森の顔が「あっ」という表情とともに、何かを思い出したかのように明るくなった。

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