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「たぶん、ヤバいヤツと思われていた......」 早稲田大・伊藤樹がブルペンにメトロノームを持ち込んだ理由 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 5月5日の対立教大3回戦では、3回8失点の乱調で早期降板している。だが、伊藤はその責任を一身に背負い込んだ。

「満足に投げられたボールはそんなにありませんでした。でも、そういうなかでも、経験のある自分が結果を残さないといけないですね」

【今を大切に生きたい】

 中学から全国屈指の強豪のエースとして戦ってきたが、名門・早稲田のエースにのしかかるプレッシャーは半端ではない。たとえ万全でなくても、結果が求められる。それがエースの宿命だと伊藤は知っている。

 時には孤独を感じることもあるが、伊藤はある理解者の存在に救われているという。

「常に『勝つこと』が目の前にあって、ずっと窮屈に野球をやってきました。理解してくれる人は本当に少ないんですけど、小宮山さん(悟/早稲田大監督)は早稲田のエースとして、プロの投手として突き詰めてきた方です。僕の気持ちを理解いただけるし、いろいろと教えていただいています。ここに来て、本当によかったと感じます」

 どんなに苦しい思いをしても、勝つことですべてが報われる。伊藤は昨年、その味を覚えた。

「やってきたことは間違っていなかったし、1年間投げ切れたことは我ながら評価に値すると感じました。自分が目指してきた道は、ここなんだなと思いました」

 早稲田大は立教大に勝ち点を落としたものの、まだ優勝の可能性を残している。明治大、慶應義塾大との戦いに、リーグ3連覇がかかっている。

 最後に伊藤に聞いてみた。伊藤が「ドラフト上位指名を受けて、プロに行く」という意思を持っていることは、すでに各種メディアで報じられている。それでは、伊藤は今後、どんな人間になっていきたいと考えているのか。

 伊藤はこの日もっとも困惑した表情を浮かべ、「うーん、難しい質問ですね......」と長考に入った。

 そして、意を決したように口を開いた。

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