【大学野球】父を超えるために! 東大のエース・渡辺向輝が導き出した"サブマリン"の方程式
東大野球部・渡辺向輝インタビュー(後編)
渡辺俊介(元ロッテほか)を父に持つ異色のサブマリン・渡辺向輝(東京大)が、アンダースロー論を語るインタビュー。後編では「あえて球速をセーブする」という驚きの投球術に迫った。
昨年秋の法政大戦で神宮初勝利を挙げた東大の渡辺向輝 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【球速を抑えて勝利をつかむ理由】
── 東京六大学リーグの試合後の会見を聞いて、ずっと気になっていたことがあります。渡辺投手はアンダースローで最速131キロが出るそうですが、あえて球速を抑えているような口ぶりでした。実際の試合では110キロ台後半の球速が多いですね。
渡辺 大学1年冬の合宿では130キロくらいが出ていました。近年の神宮球場のスピードガンだと数字が出にくいので110キロ台後半になっていますが、トラックマン(投球・打球を計測する弾道測定機器)の数値では120キロ台前半が出ています。ただ、スピードを出すにしても123キロまでと決めています。
── なぜですか?
渡辺 打者から見て、ストレートとシンカーがギリギリ見分けのつかないようにしたいからです。僕のシンカーは一度上がってから落ちる球なので、ストレートを速くしてしまうと、シンカーの変化の幅が小さくなるんです。ちょうどいい加減のシンカーは118キロ。これはトラックマンやラプソードで計測したのですが、ストレートとシンカーで縦に40〜50センチの差が出るのがちょうどいいんです。
── 速い球を投げるのが目的ではなく、あくまでも打者を打ち取ることが目的ということですね。
渡辺 スライダーもあえて2種類使い分けています。ストレートと見分けがつきにくい速いスライダーは、116キロくらいです。
── 球速差がそれほどないのに、渡辺投手の投球に緩急を感じた理由がわかったような気がします。あと、出力を落としているのは、てっきりコントロールをつけやすくするためかと思っていました。
渡辺 それもあります。力を抑えて投げるので、体をコントロールしやすくて再現性が高まります。体力的にも球数を多く投げられるので、試合でも200球くらい投げられます。
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著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。