【夏の甲子園】宮崎商・中村奈一輝に漂う未完成だからこその魅力 高校卒業後の進路は「プロの道を目指します」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

【不完全燃焼の甲子園】

 甲子園でもハプニングは続いた。宮崎商が3対2とリードして迎えた7回裏の守備中。遊撃と中堅の間へとフライが飛ぶと、中村は背走しながらダイビングキャッチを試みる。だが、打球は芝生に落ち、打者走者は二塁まで進んだ。

 その時、中村の両足のふくらはぎはけいれんを起こしていた。朝8時プレーボールの第1試合とはいえ、気温30度を超える環境下のプレーに中村の体は悲鳴をあげた。

 試合は中断し、中村は理学療法士からマッサージを受けたうえで試合に復帰。しかし、そのあとは攻守とも本来のパフォーマンスとはほど遠かった。中京大中京の4番・杉浦正悦が放った打球は、中村が得意にしていたはずの三遊間に飛んだ。それでも、中村はゴロに追いつけない。この回、宮崎商は中京大中京に逆転を許した。

 中村はこの場面を悔しそうに振り返る。

「自分が両足をつって、治療で中断になったことで流れを変えてしまいました。そこは申し訳ないです」

 9回表、一死走者なしで回ってきた5打席目には、「カットしようと思った」というカットボールを空振りして三振。結果的に中途半端なスイングになり、中村は「悔いが残る打席になってしまった」と悔やんだ。打者としては5打数1安打に終わっている。

 3対4で敗れた試合後、中村に心境を聞くと淀みない口調でこんな答えが返ってきた。

「3年前に宮商が春夏連続甲子園に行った代に憧れて入った36人で、2年半やってきました。昨日、一昨日と宮崎で地震があって、元気のない人もいたと思うので、少しでも自分たちが勇気づけたかったです」

 走攻守の技術、フィジカル、コンディションとすべて未完成。だからこそ夢がある。

 中村奈一輝が「宮崎の誇り」になる未来は訪れるのか。その可能性を十分に感じさせる夏だった。

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著者プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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