過酷すぎる学校生活に転校者が続出 18人の生徒たちはなぜ和歌山南陵に残る選択をしたのか (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

まるで廃旅館のような荒れ果てた大浴場 photo by Kikuchi Takahiroまるで廃旅館のような荒れ果てた大浴場 photo by Kikuchi Takahiroこの記事に関連する写真を見る とはいえ、誰もが渡邊のようにたくましい精神力を持っているわけではない。渡邊に「学校をやめそうだった人はいますか?」と聞くと、真っ先に名前が挙がったのが1番打者として活躍する佐々木陸斗だった。

「佐々木は入寮1日目に『やめたい』と言っていましたから」

 佐々木本人に聞いてみると、苦笑しながら当時を振り返ってくれた。

「自分は頭が悪くて、行ける高校がなくて最後まで声をかけてくれた南陵に入ったんです。でも、入学して最初の1週間はホームシックになって、実家に帰りたくてしょうがなかったですね。1年生が12人入って、すぐに2人やめて10人になって。あとひとり欠けたら終わりやな......と思ってからやめられなくなりました。みんな仲がいいので、励まし合って最後まで続けられましたね」

【相次ぐ教職員たちの退職】

 苦しい状況にあったのは、給与の未払いを経験した教職員も同じだ。教員の北原亮太は2022年のストの当事者だが、スト当日も通勤して自習する生徒の見守りをしていたという。

「それをストというのか僕にはわかりませんが、学校に来るなと強要されることもなかったので。学校経営のことをいろんな人に聞かれるんですけど、旧経営陣の頃は現場にいる教員まで情報が下りてこなくて。新聞沙汰になって初めて『こんな状態なんだ』と知ったくらいでした」

 教職員の退職も相次ぎ、部活動を指導できる人材がいなくなって部が廃部になり、また生徒の転校が続出する負のループ。旧経営陣を一掃して新たに理事長に就いたのが、経営コンサルタントの甲斐だった。

「学校だけで再建はできません。いろんな企業の力を借りて、タイアップしながら生徒を育てていきたいんです。高校生にお金の話をするのは汚らしいと思われる風潮がありますが、私は社会に出た時の現実を教えたい。頭のいい、悪いではなく、生きていける力をつけさせてあげたい。彼らは過酷な学校生活のなかで、その土台をつくってきていますから」

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