過酷すぎる学校生活に転校者が続出 18人の生徒たちはなぜ和歌山南陵に残る選択をしたのか (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

「高校1年の夏休み明けに学校に来たら、みんな学校をやめていました。高1の終わりくらいに私もやめたいなと思ったんですけど、その時はバレー部や吹奏楽部の友だちもいたので。それも高2の終わりにバレー部が廃部になって、みんな転籍していって。吹奏楽部の子もやめて私ひとりになりました。女子ひとりで不便さはありますけど、とくに変わりはないですね。年相応のいざこざはあっても、仲はいいと思いますよ」

【朝食が菓子パン1個だけ】

 バスケットボール部員のアリュー・イドリス・アブバカはナイジェリアからの留学生。205センチの長身ながらオールラウンドプレーヤーとして活躍し、インターハイ出場の原動力になった。

 同級生から「イディ」と呼ばれるアブバカはスマートフォンの翻訳機能を駆使しながら、授業を受けていた。週4回、非常勤の講師による日本語の授業を受けており、日常会話には支障がないほど日本語を扱える。

「みんな仲がいいし、コミュニケーションがとれているのでストレスはないです。食事は納豆がまずかったけど、だいぶ慣れました」

 そんなアブバカが「一度、ナイジェリアに帰りたいと思った」と明かすのが、寮の劣悪な環境だった。

 学校側の許可を得て、寮内を見回ってみる。室内というのに、空き部屋には水たまりが浮いている。天井を見上げるとタイルがはがれ落ち、黒ずんでいる。頻繁に水漏れを起こし、部屋やトイレが水浸しになるという。大浴場はまるで廃旅館のように荒れ果てていた。

 一時は業者への未払いが常態化していたため、「朝食が菓子パン1個だけ」とセンセーショナルに報じられたこともあった。

 その一方で、野球部主将の渡邊蓮は意外なことを口にした。

「おかずは少なかったんですけど、量は多く食べられたので高校で体が大きくなりました。中学までは171センチ、58キロだったのが、今は173センチ、70キロに増えています」

 学校をやめたいと思う時期はなかったのか。そう聞くと、渡邊は決然とした口調でこう答えた。

「自分は覚悟を決めて入ったので、一度来たからには最後までやり遂げるつもりでした。周りはけっこうやめたいと言っていましたけど、ひとりになってもやる気持ちでした」

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