甲子園初の完全試合を生んだ「松本の3センチ」...前橋・松本稔「その瞬間、スピードもコントロールもカーブもすべてよくなった」 (3ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika

【奇跡を呼び込んだ「松本の3センチ」】

 ただ、エースで4番を打つチームの大黒柱だった松本は、他の選手とはちょっと違った。自分の出来が間違いなく勝敗を左右する。対策を講じなければと思っていたことがいくつかあり、そのひとつが甲子園球場の形状だった。

 テレビで見ていたアルプススタンドはすり鉢状で、画面を通して伝わってきたのはマウンドに覆いかぶさるような威圧感。これが投球にどう影響するのか、とても気になっていた。でもその心配は、初めて球場に足を踏み入れた甲子園練習であっさりと解消された。

「実際に自分の目で見て、案外そうでもない、大丈夫だなと。これが平常心を保つためにすごく大きかったと思います。そして、それをあと押ししてくれたのが、本番ギリギリでのフォーム修正。サッカーでは『三笘の1ミリ』『山下の1ミリ』って絶賛されていますけど、俺に言わせればまさに『松本の3センチ』です。これがなかったら、完全試合は間違いなくありませんでした」

 試合を目前に控えた一番の不安材料は、こともあろうに自身の絶不調だった。前年秋に関東大会を戦った時のいいイメージはなく、このままでは戦えないと気持ちは切羽詰まっていた。

「試合の3日前くらいにどうにか修正しなくちゃいけないとやってみたのが、右腕の振る位置を少しだけ下げてみることでした。3センチほど下げたら、驚くほどにその瞬間、スピードもコントロールも、カーブの曲がりもすべてよくなったんです。監督から何か言われたわけではない、自分で試したことがピタリとハマりました」

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