甲子園に出場し「高校で燃え尽きてしまった」...リアル「下剋上球児」の主将は大学で挫折も指導者として再び夢の舞台を目指す (2ページ目)
「部員みんなのお父さんのような存在ですね。バラエティーに富んだメンバーに我慢強く接しながら、東先生からの厳しい言葉も受け止める。辻がいなかったら白山野球部はない。そう言ってもいいくらい、大きな存在です」
その辻にしても、中学時代には第一志望の津商業の受験に失敗した過去がある。もし、津商業に合格していたらどうなっていたと思うか。そう聞くと、辻は笑って断言した。
「絶対にベンチにも入れてなかったです。たぶん3年の夏は応援団長をやっていたと思いますよ」
M4の中心人物だった伊藤尚が「辻に感謝している」と語っていたことを伝えると、辻はうれしそうな顔でしみじみとつぶやいた。
「尚にそう言ってもらえるのはありがたいですね。東先生に感謝を伝えたことにしたって、高校時代のあいつだったら絶対に言えなかったはずですから」
高校時代は練習をサボろうとする伊藤に対して、ネガティブな感情もあったのではないか。そう尋ねると、辻は少し考え込んでからこう答えた。
「1年の冬から2年の春にかけて一時的にキャプテンをやったんですけど、その時は正直言って『野球部をやめてくれんかな』と思っていました。『野球をやりたないなら、やめればいいのに』って。でも、何度も周りに引き止められて、最後は尚が菰野(こもの)戦でホームランを打ってくれたから甲子園に行けたんですよね」
【甲子園の思い出は最後の打席】
甲子園について真っ先に思い出す記憶を尋ねると、辻は「最後の打席」を挙げた。
敗色濃厚の9回二死走者なし。辻は今まで聞いたこともないような大歓声で迎えられ、打席に入った。球場にいるすべての観客が辻を応援しているかのようだった。
「『いいんかな?』と思いましたね。世界の中心で野球をやってるみたいな感じで、今でも思い出すと鳥肌が立ちます。あれは忘れられません」
最後はピッチャーゴロで終わったのも、「自分らしい」と辻は笑う。その後も、甲子園から地元に帰ると「白山の辻くんや!」と老若男女から声をかけられた。
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