甲子園を逃した「高校ナンバーワン投手」大阪桐蔭・前田悠伍に見え隠れしたかすかな不安 (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 この日は、当初から各投手の投球を「トラックマン」という測定機器を使ってスピードや回転数などを、メーカーが測定することになっていた。おかげで前田のピッチングを捕手の真後ろから見ることができたのだが、数球見て調子が上がっていないのはすぐにわかった。横で投げる南恒誠や松井弘樹、さらにのちに投げた1年生投手のボールが捕手のミットに勢いよく収まっていくのに対し、前田の球はベース上での勢いが伝わってこない。

 全力で投げていないという声もあったが、軽く投げてもミットを突き上げてくるような前田本来の球質ではなかった。とくに右打者のインコースに切れ込む軌道の球が定まらず、力を入れると外へ抜け気味のボールになる。

 投球後、測定した担当者が前田の投球について語ったのだが、絶賛したのは「プロのトップレベルに近い」というチェンジアップ。ストレートに関するコメントはなかなか出てこず、記者が質問すると「大会前の時期なので詳しい数値は......」と、球速や回転数は口にしなかった。おそらく、強調するほどの数値は出ていなかったのだろう。

 一方、ふだんからマイナスな言葉を口にしない前田は、囲み取材で春の成果についてこんなコメントを残した。

「センバツでまだまだ力不足を感じたので、それからは1から見つめ直して、トレーニング、フォームづくりに取り組んできました。センバツの時はボールがバラバラだったんですけど、今は下半身が安定するようになって、ピッチングにもいい影響が出ていると思います。太ももはかなり大きくなりました」

 大会まで1週間ちょっと。前田は明るく語っていたが、この日見た30球あまりの投球は厳しい夏を予感させた。

【一抹の不安を残した左わき腹痛】

 これまでの前田の取材を振り返ると、ほとんどストレートの話しかしてこなかった気がする。理由は簡単で、公式戦出場となった1年秋の時点で、前田は投手が必要とする極めて多くの要素をすでに備えていたからだ。あとはストレートがどこまで上がってくるか。そこが、このサウスポーの評価を決めると見ていた。

 こちらの質問の意図を察した前田は、「2年夏には150キロを出したい」「相手が狙ってきても打たれないストレートを投げたい」と威勢のいい言葉を返してきた。

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