甲子園を逃した「高校ナンバーワン投手」大阪桐蔭・前田悠伍に見え隠れしたかすかな不安 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 しかし、多くの投手にとって最大とテーマとなる良質のストレート獲得は、容易ではない。「高校ナンバーワン投手」と評される前田にしても、例外ではなかった。

 そんな前田にこれまで一番よかった投球を尋ねると、昨年夏と秋の大阪大会決勝での履正社戦を挙げ、「どっちかと言えば、秋ですね」と語った。

 前田が言う秋の履正社戦は、9回を投げきっての完封勝利。見事な投球で、来年は夏まで負けないんじゃないか......というところまでイメージが膨らんだ。しかし、この試合の終盤に左わき腹に違和感が出た。投球に影響はないとの診断を受け、近畿大会以降も登板したが、絶好調ではなかった。

 最終的に神宮大会優勝までたどり着いたのは、悪いなりにも勝てるピッチングができる前田の真骨頂であるが、フォームを崩しながらの投球はかすかな不安を残した。

 そして慎重に調整し挑んだ春。センバツ大会で前田の評価は分かれた。東海大菅生戦では1失点完投、11奪三振で「さすが前田」という声も聞かれたが、この試合で際立ったのはチェンジアップだった。

【今夏初戦で2本の被本塁打】

 7月8日に開幕した大阪大会のマウンドに前田が現れたのは、4回戦の東海大仰星戦。結果は6回を投げ、被安打4、奪三振4、四死球2、失点2。右打者に本塁打を2本浴びたが、球種はどちらもストレート。それでも試合後の前田は、「順調」「好感触」を繰り返した。

「感覚的には悪くなかったです。打たれたのはどっちもインコースを狙った球が高く、真ん中よりに入ってしまった。『甘く入ったら、夏は打たれる』と言われていましたし、球の強さはもちろんですけど、低めに集めることが一番大事。今日はそこが反省です」

 前田の自己評価を聞いたが、正直、物足りなかった。下級生の頃にイメージしていた3年夏の姿と、いま現在......どう感じているのだろう。

「1年の頃に思い描いていたところまで、力的にはきていると思います。あとはそれを出しきれるかどうか」

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