「サイン間違いは日常的、しまいには口頭で打て!」名将・蔦文也の素顔を池田高校の元主将・江上光治が明かす (4ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika

【サインは口頭? ウソみたいな本当の話】

 夏春夏の3連覇を狙った3年最後の夏、この頃は連日の取材攻勢で僕らはちょっと疲れ気味でした。でも、蔦先生は、そんな僕らを理解しつつも甲子園に出場できないような事態だけは避けたいと、チームに覇気がない時は怒るという方法で僕たちにハッパをかけていましたね。

 水野以上にヤンチャな奴が数人いて、僕はそんなチームを主将としてまとめるのは大変だったのではとよく聞かれましたが、みんな勝ちたいという気持ちは一緒だったので、人が思うほどの苦労はしていません。

 甲子園では、蔦先生のオーバーなジェスチャーが豪快に見えたと思います。でも、実際の蔦先生は案外肝っ玉が小さくて、怖がりの人。バントとか細かな指示を出したこともあったけどそれがうまくいかなくて、しまいには「お前らで勝手に打って来い」と言い放ったことがありました。

この記事に関連する写真を見る そうしたらみんながガンガン打って、先生にしてみたら「自由に打たせてこんなラクなチームがつくれてよかったわい」という感じ。生徒にとって一度きりの高校野球で、自分の作戦で負けるというのを本当に嫌がっていたんです。

 サイン間違いなんて日常的で、しまいには口で「打て」とか「走れ」とか言っていましたからね。僕らはそれを忖度して受け取らないとゲームにならない。選手がくみとることで成り立っていたという、それがウソみたいな本当の話です。

4 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る