「サイン間違いは日常的、しまいには口頭で打て!」名将・蔦文也の素顔を池田高校の元主将・江上光治が明かす (2ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika

【短所は3年間では間に合わんから直さんでええ】

 僕はもともとうまい選手ではなかったのですが、エースだった水野雄仁(元巨人、現・巨人スカウト部長)と一緒に早くから試合に使われていました。2年生でスタメン入りした時、なんで江上なんだという声が周囲から出て、これは僕が40歳くらいになって初めて人から聞いた話ですが、3年生の保護者から問われた時に蔦先生が答えたのは、「畠山準(元横浜)を中心としたこのチームには、こういう子が必要なんだ」。

 こういう子というのを僕が自分で説明するのは難しいけど、当時を振り返ると、僕は練習にしても草むしりにしても言われたことは手を抜かずにやっていた。そのキャラが、個性的なチームだからこそ欠かせないんだと思ってくれたのではないかと。直接言われたわけではありませんが、見ていてくれたのかなと思います。

この記事に関連する写真を見る 池田というと、パワー野球と言われます。力だけに頼って野球をやっていた、みたいなイメージで伝わることが多いんですが、それは当事者として否定したい点です。筋トレができるいわゆるメカニックなトレーニングはしておらず、タイヤや自分の体重を利用したトレーニングが中心で、体をコントロールし、動きをよくするために行なっていました。

 そもそも器具を買うお金もない公立校ですからね。蔦先生はこうしたトレーニングの重要性を保健体育の先生から教わって、思いきって練習に取り入れたわけです。

 その点では先見の明があったと言えますが、先生の指導法は長所を伸ばすことが第一で、短所は3年間では間に合わんから直さんでええという考え方でした。凡打をしても、守備でエラーをしても怒られたことはなく、大目玉を食らうのは消極的なプレーややらねばならないことをやらなかった時。

 細かいことは言わず、高校生って何だかんだ悪さをするものだけど、見逃すところはしっかり見逃してくれました。だから僕らものびのび野球がやれたんだろうなと。そのあたりはすごく印象に残っています。

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