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「サイン間違いは日常的、しまいには口頭で打て!」名将・蔦文也の素顔を池田高校の元主将・江上光治が明かす (3ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika

【「ブンが来るで」「何やっとんじゃ〜」】

 練習のひとつに坂登りがあって、僕は持久系が弱く、ある日一番ビリを走っていました。坂の一番上にある白いガードレールをタッチして戻ってくるんですが、僕はうしろから2番目のやつがタッチしたあと、ちゃっかりそこでクルッと回って戻ったんです。

 そうしたら、その時に限って蔦先生が双眼鏡で見ていた。グラウンドに戻ったら「最後まで行ってないヤツがおる、誰や〜!」って。体型からしてもうバレバレですからね。ここはまったく見逃してくれず、腹くくってハイッと手を上げた途端にしばかれました(笑)。

この記事に関連する写真を見る おおらかといえば、敵チームの選手が偵察で学校に来た時、普通なら来てるぞと警戒するものなのに、発見した途端に「君、〇〇の子か? ちょっと来て」と手招き。蔦先生、池田にもスピードガンがあるにもかかわらず、その子に「ええもん持ってるやないか。畠山の球、測ってやってや」と声をかけて、ブルペンで楽しそうに計らせていました。

 そんな先生の秘密主義もくそもない姿を僕らはおもしろおかしく見ていて、自然と怖いもんなどないわ、みたいな気分になっていた気がします。

 僕も入っていた遠方者用の寮での出来事は、当時ならではです。一軒家を借りていて大人の管理人はおらず、蔦先生も基本的にふだん顔は出しません。夜になると、1台ある電話を奪い合いしながら誰かしらが使っているのが日常で、いつも当たり前にふさがっている状態でした。

 でも、たまに翌日の朝練のことで先生から電話が入ることがあるんです。それで「あまり長電話しよるとブン(蔦監督の呼び名)が来るで」と僕が言ったら、案の定、蔦先生の登場です。

 まず入口で受話器を持っていたヤツが「何やっとんじゃ〜」ってしばかれて、あとは部屋の点検などをしながらガンガンに怒られる。でも最後は野放地帯になっていて、長くもない廊下を自転車が走っていたりとみんなやりたい放題でした。今の時代なら考えられない、ウソみたいな話が当時の池田にはありました。

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