能代松陽の長身右腕はもっと騒がれるべきレベル 大阪桐蔭戦のピッチングで全国区を目指す (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 石橋戦での球速は本来の最速144キロには届かず、最速141キロ止まり。それでも、球威は段違いに増していた。試合後、柴田は裂傷を負った左手の人差し指を報道陣に示しながらこう語った。

「捕っていて指が切れてしまいました。今までこんなことはなかったんですけど。指は痛いですけど、強いボールがくるようになってよかったです」

【大阪桐蔭戦のカギはカットボール】

 さらに森岡は、もともと「変化球のほうが自信はあります」と語るほど変化球を得意にしている。とくに120キロ台中盤で鋭く変化するカットボールは「カウントもとれるし、空振りもとれる」と自信を持っている。

 おそらくこのボールが、大阪桐蔭戦での大きなポイントになるだろう。捕手の柴田はこんな言葉を口にする。

「カットボールが抜けてしまうと甘く入って長打になるので、低めに集めて打たせてとりたいですね」

 3月20日の大阪桐蔭の初戦(敦賀気比戦)を、能代松陽の選手たちはレフトポール付近の外野席で観戦したという。大阪桐蔭打線の印象について、森岡は「1番から9番まで切れ目がない」と語り、柴田は「南川(幸輝)くんなど全員がすばらしいバッター」と語った。

 それでも、森岡には貫きたいことがあるという。

「自分たちの野球は『全員野球』なので。ベンチから全員で声を出して、全員で戦うことを忘れないようにしたいです」

 一方の柴田は「王者への挑戦権を得られてワクワクしています」と不敵に笑った。森岡が本来の実力を出しきれば、大阪桐蔭といえども攻略は容易ではない。どんな試合展開が待ち受けているだろうか。

 なお、今後の進路のビジョンを聞いてみると、森岡はこう答えている。

「何も考えていません。まずは今の高校野球を3年間やりきることだけ考えています」

 無欲の長身右腕がガムシャラに投げ続けた先には、さらなる高みへの扉が続いているはずだ。

『離島熱球スタジアム』 鹿児島県立大島高校の奇跡

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【著者名】菊地高弘
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著者プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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