専大松戸・平野大地は投手転向わずか2年で甲子園完封勝利 センバツ最速記録よりも目指すもの

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

「センバツは投手力」

 高校野球界には、そんな格言がある。実戦が解禁されて間もない春先、本格的なボールに目が慣れていない野手に対して、投手は仕上がりが早く実力を発揮しやすい。そのため、これまで数々の好投手が春の甲子園で躍動してきた。

 今春の選抜高校野球大会(センバツ)もドラフト上位候補の前田悠伍(大阪桐蔭)を筆頭に、多くの好投手が甲子園マウンドに上がった。

 なかでも開幕前から「大会ナンバーワン右腕」の呼び声が高かったのは、平野大地(専大松戸)である。

常葉大菊川戦で完封勝利を挙げた専大松戸のエース・平野大地常葉大菊川戦で完封勝利を挙げた専大松戸のエース・平野大地この記事に関連する写真を見る

【中学時代は控えの捕手】

 身長181センチ、体重84キロのたくましい体躯から、最速151キロの快速球を投げる。といっても力任せな剛腕タイプではなく、昨秋は右肩付近の肋骨を痛めた影響もあってカーブ、スライダーを巧みに使う投球術を披露した。

 そんな平野だが、じつは投手歴は高校1年時からと浅い。一塁牽制の際、右腕の予備動作をほとんどとらずに投げる投法に「前職」の名残がある。平野はもともと捕手だったのだ。

 小学生時には1学年上の赤羽蓮(現・ソフトバンク育成)とバッテリーを組み、関東屈指の強豪・取手シニアに所属した中学時代も捕手だった。取手シニアからのチームメイトで、当時は捕手仲間だった吉田慶剛に「捕手・平野」の印象を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「キャッチャーとして配球を考えるのがうまくて、何よりも一番は肩が強かったことですね。二塁送球がピッチャーの腰の高さで届いていましたから」

 それでも、中学時代は吉田が正捕手で平野は控えだった。その理由を尋ねると、吉田は苦笑しながらこう答えた。

「自分のほうが打てたので、そこだけですね。守備は平野のほうが上でした」

 3月22日、常葉大菊川(静岡)との初戦に平野は先発登板した。1回表のまっさらなマウンドに立つと、平野は帽子をとって天を見上げ、深呼吸した。

 じつはこの日はWBC決勝戦が行なわれており、平野がマウンドに立った時は侍ジャパンの8回裏の攻撃中。甲子園のスタンドはスマートフォンでWBCの中継映像を見る人や、速報アプリで戦況を注視する人であふれた。そんな気もそぞろなスタンドをよそに、平野は初めての甲子園マウンドで実力を発揮する。

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