春夏連覇に挑んだ大阪桐蔭は本当に「絶対王者」だったのか。指揮官が語った「歴代13番目くらい」のチームの葛藤と成長 (5ページ目)
敗戦翌日になると、各方面から敗因の分析も含め、"大波乱"の一戦を振り返る記事に溢れた。いろんな記事を読みながら、頭のなかに浮かんだのは「あのスタートからよくここまで......」という1年前の風景だった。
昨年のチームは松浦慶斗(現・日本ハム)、池田陵真(現・オリックス)という投打の軸を筆頭に、春夏連続で甲子園出場を果たしたが、センバツの初戦敗退に続き、夏も2回戦敗退。しかも智辯学園(奈良)、近江(滋賀)の、近畿のチーム相手に続けて敗れるなど、これまでの大阪桐蔭にはなかった結果に、周囲は一気にざわついた。
もしチームになったばかりの秋もあっさり負けるようなら、高校野球の勢力図が変わるかもしれないと......。のちにその話を西谷監督に向けると、「去年の秋は危機感しかなかったです」と頷いた。
旧チームからのレギュラーは松尾ひとりで、投手は川原嗣貴、別所孝亮、川井泰志が甲子園のマウンドを経験したが、まだまだ不安定。キャプテンを務める星子天真をはじめ、海老根、伊藤櫂人、丸山一喜といった現チームの主力野手はベンチ入りすらしていない。これだけ実戦経験の少ないメンバーが揃ったスタートは、大阪桐蔭の過去を振り返ってもめったにないことだった。
新チーム発足後は、毎晩ミーティングを繰り返し、そのあとにスイング。早朝からもバント練習をするなど、西谷監督曰く「突貫工事」で秋の大阪大会へと挑んだ。当時を振り返り「ほんと必死でした」と語る西谷監督の言葉には実感がこもっていた。
ところが終わってみれば、大阪大会、近畿大会に続き、大阪桐蔭史上初となる神宮大会、さらにセンバツまで制するチームへと変貌を遂げた。センバツのあとにはこんな質問を受けるチームになっていた。「甲子園春夏連覇を達成した2012年、2018年のチームと比べてどうですか?」と。
甲子園を去った翌日、まだ主将は置かず、新チームはスタートを切った。今年のチーム同様、実戦経験の少ない選手が多いが、敗戦直後のオンライン取材で「甲子園の借りは甲子園でしか返せない」と決意を込めた前田が残る。
思えば今年と同じ春夏連覇へ挑んだ5年前の夏の甲子園。3回戦で仙台育英に逆転サヨナラ負けを喫した時のマウンドにいたのも2年生の柿木蓮(現・日本ハム)で、バックには根尾、藤原、中川卓也(現・早稲田大)。先輩たちとともに偉業へ挑み、敗れた悔しさを持った2年生たちがそこから大きく成長。翌2018年には見事、春夏連覇を勝ちとったのだ。
昨年同様、突貫工事の秋からまた1年。「歴代13位くらい」の次にどんなチームができあがってくるのか、楽しみでならない。
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