春夏連覇に挑んだ大阪桐蔭は本当に「絶対王者」だったのか。指揮官が語った「歴代13番目くらい」のチームの葛藤と成長 (4ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 しかし9回表、甲子園の"魔物"が現れ気配が一変した。ここ数年、甲子園の名物になりつつある劣勢チームへの気まぐれな大応援である。これが瞬く間に球場内に広がった。連続ヒットを許して無死一、二塁。送りバントで一死二、三塁となると、手拍子にうちわ、メガホンを叩いての"大応援"はさらにヒートアップした。

「相手の応援がすごいほど燃えてくる。大好物です」と言ったのは、大阪桐蔭の2012年春夏連覇のメンバーである澤田圭佑(現・オリックス)だが、この10年の間に応援の質は明らかに変わった。

 かつては贔屓チームの選手たちの背中を押したいと、自然発生的に生まれた応援は心地よく耳に馴染んだが、今のそれは威圧的な大音量を伴い、グラウンドに立つ選手たちに容赦なく襲いかかる。大阪桐蔭にとっては完全アウェーの戦いとなり、前田も飲み込まれていった。

 相手の4番・賀谷勇斗のカウント1-1からの3球目、前田が昨年の秋以降にこだわり、磨いてきたストレートを叩いた打球は大きく弾み、前進守備の二遊間の真ん中を割ると、センター・海老根優大の懸命のバックホームも及ばずふたりが生還。一瞬にして試合がひっくり返った。

危機感しかなかった昨年秋

 試合後、一塁側ベンチ前で仲間と抱き合いながら涙する大阪桐蔭ナインの姿を眺めていると、夏へ向かう取材のなかで熱く語ってきた西谷監督のもうひとつのチーム評を思い出した。

「ほんと一生懸命やるいいチームなんです。ものすごくしんどい練習をしても前向きで、ハートの強い選手が多いチーム。毎日一緒に練習しながら『この子たちと勝ちたい』という気持ちにさせてもらいながらやっています」

 誰に聞いても同様の答えが返ってくる。ふだんの取材では、すぐに笑いへ持っていこうとする攻守の要である松尾汐恩も、チームを語る時には真剣な目で語ってくる。

「ほんといいチームですよ。おちゃらけの時もありますけど、やる時はやる。この切り替えの感じが抜群によくて......このメンバーで1日でも長くやって、夏も絶対に日本一です!」

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