大阪桐蔭・西谷監督が漏らした「察してください」の意味。3度目の春夏連覇へ盤石の体制か? (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Taguchi Yukihito

 夏の大会前の7月2日、大阪桐蔭は高知高校と練習試合を行なった。それまでコロナ対策で取材が制限されており、大会前に大阪桐蔭の選手を取材できる唯一の機会とあって、多くの報道陣が詰めかけた。

 この日も投げることのなかった前田に試合後、話を聞いた。すると「実戦で投げた最後は、練習試合の東海大菅生との試合です」と言った。あとで調べてみると、その試合が行なわれたのは6月19日。内容は「先発して、5回か6回でたぶん4点とられて負けました」(5回4失点)。少しオーバーに「大乱調?」と聞くと、「いや、真っすぐを試そうと思って、あえて押していったので、全然気にしていないです」ということだった。

 6月は追い込みの時期で体もきついし、そんな日もあるだろう......。そんなことを思いながらも、やはり前田の状態が気になっていた。

 もちろんこの時も、夏へ向けての話題になると「大丈夫です」と力強く言い、捕手の松尾汐恩に前田の調子を確認しても「練習ではバチバチです」と力を込めてきた。

前田悠伍の本当の状態は?

 もし前田が本調子でないとなれば、戦いの様相は一変し、この先の道は極めて厳しいものになっただろう。

 投手陣は川原、別所を筆頭に揃って好調だが、やはり戦いのなかで軸となるのは前田だ。これまでの起用を見ても、センバツ決勝(近江戦)、春の大阪大会決勝(履正社戦)、春の近畿大会決勝(智辯和歌山戦)は、いずれも前田が先発。大会ごとに決勝の意味合いは違うが、それでもすべて先発させたということは前田に対する信頼の証である。

 この男がいつもどおりの状態でマウンドに上がることが、夏の結果にも大きく影響してくる。そんな前田の現状がよくわからず、何事も穿った見方をしてしまう私のなかでさまざまストーリーが浮かんでいた。

 大阪大会、前田の初登板は東海大仰星戦だった。先発し、結果は4回無失点。被安打3、奪三振5と聞けばいつもどおりだが、これまでとの決定的な違いは5つの四死球を与えたことだ。立ち上がりからボールがばらつき、毎回四球。昨年秋から見てきたなかで、こんな前田を見たのは初めてで、いっそう不安が高まった。この状態で履正社と対戦すれば「ひょっとして......」と思うには十分だった。

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