「おまえはそんなに弱い男だったのか!」指揮官の檄に聖光学院・佐山未來が覚醒。甲子園でも自己最速に期待 (4ページ目)

  • 田口元義●文・写真 text & photo by Taguchi Genki

 1日目をノースローに回し、2日目にブルペンに入った。その時点で、まだ違和感は拭えていなかった。

「本当にそれでいいんだな? おまえはそのボールで満足なんだな?」

 部長の横山博英に檄を飛ばされる。

「オメェ、どっかで怖がってねぇか。迷いなんか断ち切れ! 腕を振り抜け!」

 監督の斎藤からも喝を入れられる。

 春先のように思いきり左足を踏み込んだら、また内転筋を痛めてしまうのではないか。そうした恐怖心を見透かされていた。

 1球、1球投げ込むうちに、少しずつ迷いが薄れていく。「ウォラァ!」の雄叫びとともにボールが唸る。

 迎えた東日大昌平との準決勝。「いつも一緒にいて、信頼できるピッチャー」と語る左腕の小林が8回無失点と奮起し、最終回のマウンドを佐山が受け継いだ。

 一死後、ヤクルトジュニア時代のチームメイトで、今も交流のある3番・佐藤壱聖を迎えると、アドレナリンが放出される。6球目に自己最速となる141キロをマークすると、ファーストフライに打ちとった8球目は142キロ。1年以上も超えられなかった自己最速を、わずか8球のうちに2度も更新した。

「ビビっていたから殻を打ち破れていなかった。やっとリミッターを外せるようになったというか、悪かった自分から抜け出せたと思います」

 聖光学院の絶対エースは復活を遂げた。

 その姿に目を細めながらも、斎藤は「もう少しだな。あのボールの勢いでもっと低めに決まってくれればいいけどね」と注文をつける。克服すべき課題があればこそ、佐山というピッチャーはレベルアップを図れるのだ。

 雪辱を誓う真夏の大一番。福島を制したあと、「まだ折り返し地点だよね」と佐山に問うと、それまで笑みを浮かべていた表情が急に引き締まった。

 短く頷くその顔には、決意が宿っていた。

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