愛工大名電が「虎視眈々虎意虎王」のスローガンのもと甲子園で躍動。もう夏に弱いとは言わせない

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 愛工大名電の今年のチームスローガンが「虎視眈々虎意虎王」と聞いた時、「倉野監督らしいな」と思わずにはいられなかった。

「こしたんたん・とらい・とらっきんぐ」と読む。その心を4番・山田空暉(てんき)に聞くと、こう教えてくれた。

「今年は寅年ということもあり虎視眈々と、何事も挑戦するという意味でトライ(虎意)、自分たちはデータをしっかり取っているのでトラッキング(虎王)ということです」

 説明されればなるほどと思えるが、初めて聞いたら戸惑うネーミングではないか。そう水を向けると、山田は「自分たちに合ったスローガンだと思いました」と答えた。私の勝手な憶測だが、甲子園の試合後の記者会見ではなく一対一で膝を突き合わせてのインタビューなら、違う答えが返ってきそうな気がした。

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個性的スローガンの意味

 今から4年前、愛工大名電のチームスローガンは「SKB47」だった。

 当時、アイドルグループ・SKE48メンバーの松井珠理奈がAKBグループ総選挙で1位を獲得。そのニュースを知った倉野光生監督は「時代は名古屋だ!」と思い立つ。愛工大名電と言えばバント偏重の戦略を取った時期もあったが、ちょうどバント不要の攻撃野球へと方針を180度転換させたタイミングでもあった。そこで、「S(スーパー)K(攻撃)B(ベースボール)47(当時の野球部員数)」と名づけた。

 当時、主将を務めていた西脇大晴(現・亜細亜大)に感想を聞くと、苦笑しながらこんな反応があった。

「じつはSKEに興味がないので、最初はピンときませんでした」

 倉野監督は異色の野球人である。趣味は登山に書道。命の危機を覚えるような雪山で精神を研ぎ澄まし、躍動感のある筆致の書をいくつも残している。取材しているだけでも、その口ぶりにアーティスティックな感性を感じることがある。

 とはいえ、倉野監督と選手の間に距離や溝があるわけではない。西脇はこうも語っていた。

「実績のある監督なのに、ネットの修繕とか、細々と面倒な仕事までできるのがすごいと思います」

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