「おまえはそんなに弱い男だったのか!」指揮官の檄に聖光学院・佐山未來が覚醒。甲子園でも自己最速に期待 (2ページ目)

  • 田口元義●文・写真 text & photo by Taguchi Genki

 迎えた秋、佐山はマウンドに君臨した。最速140キロのストレートに縦と横のスライダー、カーブ、カットボール、ツーシーム、シンカー、フォーク、チェンジアップ......多彩な変化球と抜群の制球力を駆使した投球術が冴えわたった。

 まさに"絶対エース"と呼ぶにふさわしいパフォーマンスだった。福島大会から東北大会の準決勝までの9試合すべてに登板。63回を投げて防御率1.00と、チーム打率.267の打線をカバーする獅子奮迅の活躍で、聖光学院にとって6度目となるセンバツ出場の原動力となった。

センバツ敗戦で痛感した驕り

 しかし、チームが絶対不変の目標「日本一」を掲げた舞台で、佐山は山の険しさを痛感することとなった。

 大会前に習得した「力感なく投げる」ことを意識したピッチングで、前評判の高かった二松学舎大附(東京)をわずか93球で完封。ところが続く近江(滋賀)との試合は、公式戦で自己ワーストとなる7失点。佐山は自らの驕り、無力さに直面する。

「自分が投げた試合でついた初めての黒星で......今までは打たれて降板しても、試合は勝っていたので、心のどこかで『自分のせいじゃなかった』という気持ちがあったって気づきました。近江に負けたことで、自分が"井の中の蛙"だったと」

 センバツ後、佐山は勝手に自分の限界に見切りをつけようとしていた。

 甲子園で投げあった近江・山田陽翔の最速148キロをはじめ、全国には150キロ近いストレートを投げるピッチャーがゴロゴロいる。一方で佐山は、2年生の夏前に記録した140キロを超えられないままだった。現実を突きつけられたことで、目的意識を失いかけたという。

「おまえはそんなに弱い男だったのか?」

 斎藤智也監督から尻を叩かれる。佐山自身も時計の針を巻き戻しながら、「高みを目指せていなかった」と未熟さを認めた。

 力感を抑えたピッチングから、出力を高めることに主眼を置き換える。踏み出す左足の歩幅を5.8足から6.3足に伸ばしたことで、バッター寄りの位置でリリースできるようになり、威力が増した。

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