「おまえはそんなに弱い男だったのか!」指揮官の檄に聖光学院・佐山未來が覚醒。甲子園でも自己最速に期待 (3ページ目)

  • 田口元義●文・写真 text & photo by Taguchi Genki

聖光学院のエース・佐山未來(写真左)を陰で支えた小林剛介聖光学院のエース・佐山未來(写真左)を陰で支えた小林剛介この記事に関連する写真を見る 8種類の変化球を操り、ピッチングスタイルをすぐに修正できることからもわかるように、佐山は器用なピッチャーである。そのことが、時として代償を伴うこともあった。それが今年春の大会だった。

 県大会では3試合21イニングを投げて無失点と、新たな形で成果を収めたが、東北大会初登板となった準々決勝の秋田商戦で右足内転筋が悲鳴を上げた。準決勝、決勝はリリーフに回り無失点と結果は残したが、大会後からコンディション不良に悩まされ続けることになる。

投球スタイル変更の代償

 夏を投げ抜くにあたって、この山が最大の難所となった。

 患部は軽い炎症だったが、大会直前に痛みが再発するなど状態が上がらない佐山は焦燥感を抱いていた。不動のエース──夏のカギを握る選手であるがゆえに、チームメイトに心情を悟られまいと平静を装った。だが、行動をともにすることが多い小林は、佐山の機微を感じとっていた。

「佐山は絶対につらそうなそぶりを見せないし、試合でも調子がよくないながらもチームを背負って頑張るようなヤツなんで」

 その小林が夏前に一度だけ、佐山が漏らした本音を聞いたことがあった。

「オレで負けたらどうしよう......」

 小林は何も返せなかった。ただただ、「夏はコイツをひとりにさせない。限界まで投げさせない」と誓ったという。

 夏の大会が開幕しても、佐山のエンジンはかからない。初登板となった3回戦の小名浜海星戦は8回3失点とゲームはまとめたが、バッテリーを組む山浅は「球が荒れていました」と語り、指揮官からは「3失点は計算外」と厳しい評価を下された。

 佐山自身は「心と体が一致していなかった」と分析。その後は先発とリリーフを繰り返し、準々決勝まで16イニングを投げ自責点5と最低限の仕事は果たしてきた。そんな佐山に復調の兆しが見えたのが、準決勝前の2日間の調整だった。

自己最速の142キロをマーク

 本来なら、準決勝まで中1日のインターバルだったが、他会場の試合が雨天順延になったことで中2日に伸びた。これが佐山にとって転機となった。

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