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明石商・来田涼斗はここぞで打つ。
「豪打一振」で世代最強の1番打者へ (2ページ目)

  • 沢井史●文 text by Sawai Fumi
  • photo by Sawai Fumi

 その後、互いに得点を加え、3−3で迎えた9回裏に試合を決めたのは、来田のサヨナラ本塁打だった。先頭打者本塁打とサヨナラ本塁打を1試合で放ったのは大会史上初。この試合で来田の名が一躍高校野球ファンに知られることになったのだが、当の本人はこの時のことを覚えていないという。

「甲子園って、試合をするだけで楽しいところ。いい場面で打てたのはうれしいのですが、あの時の感触は、じつは覚えていなくて......(笑)。たまたまです」

 来田について、狭間監督はこうも言う。

「あいつはこちらがこうしろと言っても、なかなか聞き入れないんです」

 指揮官も苦笑いを浮かべるほど典型的なマイペース人間だが、ことバッティングに関しては強いこだわりがある。

「インパクトを大事にしています。リストよりも打つ瞬間に力を与えられるようにして、インパクトにどれだけ力を込められるか。そこはずっとこだわってきました」

 2019年の秋、新チームになったばかりの頃、来田は3番を打つ時期があった。だが、なかなか思うようにバットが振れず、チャンスでもことごとく凡退を重ねた。その時のことを、狭間監督はこう振り返る。

「下半身にあれだけ力があるのに、手先の感覚だけで打ってしまうというか。秋はまさにそうでした」

 近畿大会の準々決勝の大阪桐蔭戦で、2回にレフトに2点タイムリーを放ったが、「来た球にたまたま反応できただけで、詰まっていたし、納得のいく当たりではなかったです」と、本調子にはほど遠い内容だった。

 苦しんだ理由はそれだけではない。来田が言う。

「3番を打つようになって、ランナーが出ていなくても自分が出塁してチャンスを広げなければいけないと思って......それが空回りしてしまいました。すべてが悪い方向にいってしまいました」

 主将になり、より責任感が増したこともあるだろう。現在はこれまでの1番に戻り、一からの出直しを誓う。

「自分の役割は塁に出ること。うしろのバッターにつなげるという気持ちがあれば楽に打席に立てるのに......その気持ちがこの秋は薄れていたかもしれません」

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