「甲子園トリビア」球児の左肩「校章」には郷土への思いがあふれる

  • いとうやまね●文 text by Ito Yamane
  • photo by kyodo news

スポルティーバ・トリビアvol.6【甲子園編】

 甲子園では出場校の校旗をすべて見ることができる。試合前には対戦する2校の旗がスコアボード上に掲揚される。旗の中央には校章、もしくはそれに準ずるシンボルマーク(エンブレム)がデザインされている。さすがに遠くて見えないので、選手のユニフォームの左肩を見てほしい。そこに同じ刺繍、もしくはワッペンが施されているはずだ。

生徒に人気のエンブレムタイプ

 今時の制服は男女ともにブレザーが多く、そのせいか各校で伝統的に持っている校章とは別に西洋風のエンブレムを作る高校が多い。ブレザーの胸ポケットに昔風の校章がフィットしないからだろう。たとえば、仙台育英は宮城野萩を幾何学的にデザインした伝統的な校章があるのだが、甲子園では王冠を被った「有翼の獅子」をデザインしたエンブレムがあしらわれている。ライオンの愛称で知られる創設者にちなんだもので、I-LION(育英ライオンの意)と呼ばれるそうだ。

仙台育英のエンブレム仙台育英のエンブレム 今大会出場校のエンブレムでは、履正社や神村学園が目を引く。とくに神村学園のエンブレムは紋章学に倣った高度な作りになっている。中央の盾やクレスト、装飾的なマントにモットーが記されたリボンまである。図案それぞれに細かく意味があるので、学校のオフィシャルサイトをのぞいてみて欲しい。

その地に伝わる植物紋

 校章といえばその地方の花や木、葉をモチーフにすることによって郷土の誇りを印に込める伝統がある。立命館宇治にデザインされている「宇治茶の葉」はまさにそうだ。筑陽学園の梅の紋は、大宰府の「飛梅伝説」にモチーフを得ている。平安時代の貴族・菅原道真は、平安京朝廷内での藤原時平との政争に敗れて遠く大宰府へ左遷されることとなった。屋敷を出るとき庭の梅の木との別れを惜しみ、詠んだ歌がある。

 東風(こち)吹かば 
 にほひをこせよ 梅花(うめのはな) 
 主なしとて 春を忘るな

 東風が吹いたら(春が来たら)芳しい花を咲かせておくれ、梅の木よ。大宰府に行ってしまった主人(私)がもう都にはいないからといって、春の到来を忘れてはならないよ、という意味になる。主人を慕った梅は、道真が太宰府に着くと、一夜のうちに主人の下へ飛んで来たといわれている。

商業の守護神ヘルメスの杖

 出場校の中に商業高校がいくつかある。経済、ビジネスなどの知識を習得することを目的とした高等学校なのだが、二匹の蛇が巻きついた羽の生えた杖を校章にしているところが多い。これは、ギリシャ神話のヘルメス(ローマ神話のマーキュリー)の持つ杖「ケーリュケイオン」からモチーフを得ている。ヘルメス(マーキュリー)は商業の守護神なのだ。今大会では、北照、高岡商、広島商などがこのタイプの校章である。

 ここで紹介しきれなかった高校にも、それぞれの理念が込められた校章がある。試合を見る機会に注目してみると、また違った甲子園の楽しみ方が増えるかもしれない。

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