履正社ナインが語る豪打の秘密。
ねじ伏せられた屈辱が才能に火をつけた

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

「はたして今日は、どっちの履正社か......」。

8月7日に行なわれた履正社(大阪)と霞ケ浦(茨城)との試合前、私の興味はそこにあった。4年ぶりに制した大阪大会では、7試合を戦いチーム打率.367、10本塁打と強打で打ち勝ってきた印象が強い。

 ただ大阪大会で残した数字と、実際に試合を見て受けた印象には多少の差があった。選手個々の能力の高さは、今年の大阪では間違いなく最上位。準決勝では昨年夏の南大阪代表の近大付を7対2で下し、決勝では準々決勝で大阪桐蔭を破った金光大阪にこちらも7対2で勝利するなど、活発な打線で押し切った。

初戦でプロ注目の霞ケ浦・鈴木寛人からホームランを放った履正社・井上広大初戦でプロ注目の霞ケ浦・鈴木寛人からホームランを放った履正社・井上広大 一方で大阪大会の7試合のなかには、こんな2試合もあった。

 まず4回戦の大阪電通大戦。電通大は「大会序盤で当たると嫌な相手」とある中堅私学の監督が"警戒"していたチームではあった。ただ昨秋は3回戦、今春は初戦で敗退しており、結果だけを見れば実績を残していない。それゆえ、戦前の予想は履正社が圧倒的だったが、試合は2対1と辛勝。

 そして準々決勝の桜宮戦も2対0とロースコアでの勝利だった。桜宮は体育科を持つ公立校で、甲子園経験もある実力校。岡田龍生監督が履正社赴任前にコーチとして矢野燿大(現・阪神監督)を指導していたという"縁"のあるチームだった。その桜宮は今夏、優勝候補の一角に挙げられていた大阪偕星や、昨年夏の北大阪大会準優勝の大阪学院、さらには大大産大付や上宮という甲子園出場経験のある私学を次々と撃破。勢いに乗っていたところでの対戦ではあったが、履正社打線はわずか4安打に抑えられたなかでの勝利だった。

 もちろん「打線は水もの」と言われるように、計算しづらいものだ。桜宮戦で貴重な一発を放った4番・井上広大に、大阪大会で苦戦した2試合について聞くと、こんな答えが返ってきた。

「電通大の試合は右投手にきっちりコーナーを攻められて、桜宮の時はうまくかわしてくる左投手で、自分たちのバッティングをさせてもらえませんでした」

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