2019.08.11

超高校級エースやスラッガーは皆無。
それでも勝つ関東一高の不思議

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 一言で言えば「不思議なチーム」である。

 攻撃力がもてはやされる現代野球にあって、猛烈なフルスイングを見せる打者がいるわけではない。守備は堅実だが、観衆を魅了する派手なプレーができるわけではなく、肩もさほど強くない。中心投手は140キロ台の快速球を投げるものの、簡単に先頭打者を四球で出塁させてしまう。

 それなのに、9イニングが終わったときには相手チームより1点でも多く奪っている。関東一(東東京)とはそんなチームである。

日本文理戦で無安打に終わった関東一高の村岡拓海だが、守備でチームのピンチを救った 8月10日、夏の甲子園(全国高校野球選手権)初戦で日本文理(新潟)と対戦した関東一は10対6で勝利した。日本文理の鈴木崇監督は「ウチにも得点機はありましたが、それをより多くものにするのが全国区のチームなんだなと感じました」と敗戦の弁を述べた。

 関東一の2番・セカンドのレギュラーを務める村岡拓海は「ウチは野球の実力だけなら甲子園出場校のなかでも下のほうだと思います」と語る。

 謙遜ではない。昨秋、関東一の公式戦を見たことがある。強豪と言いがたいチームにも苦戦し、米澤貴光監督の苦渋に満ちた表情が印象的だった。秋の東京都大会は3回戦で敗退。米澤監督は当時を「これは本当に厳しいな……と思っていました」と振り返る。

 チームが変わったのは、ここからだ。きっかけは野球部を引退した石橋康太(現・中日)、宮田蒼太(現・國學院大)、齋藤未来也(現・中央大)らが寮に残り、進路先のチームに合流するギリギリまで練習に参加してくれたことだった。

 米澤監督によると「年が明けてから、選手たちの野球への理解度が目に見えて変わりました」とう。選手たちも自分たちの成長を感じ取っていた。村岡は言う。

「秋の時点では『自分たちはできている』と勘違いしていました。でも、冬場に実戦を想定した練習を一からやり直したことで、細かい部分まで野球を叩き込まれました」

 50メートル走5秒台という快足を武器にする大久保翔太は、同じく俊足外野手の齋藤から走塁術を学んだ。

「齋藤さんは感覚の人なので、擬音ばかりなんですけど(笑)。齋藤さんの動きを見て、『こう動くんだな』と自分なりに勉強できたのがよかったと思います」