2019.07.04

練習時間1日50分。進学校の
152キロ右腕が広島の歴史を塗り替える

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Inoue Kota

「正直、ここまでの成長は”想定外”でしたねえ……」

 武田(広島)を率いる岡嵜雄介(おかざき・ゆうすけ)は、喜びといくらかの困惑が入り混じったような笑顔で、教え子の成長を評した。

 岡嵜の描いた”予想図”を上回る成長を続けているのが、武田のエースを務める谷岡楓太(たにおか・ふうた)だ。昨秋の練習試合で151キロ、今年6月に行なった近大付(大阪)との練習試合で自己最速となる152キロをマーク。その速球に、「平日の練習時間は約50分」という武田の練習環境の特殊さもあわさり、甲子園未出場ながら知名度を急上昇させている。

6月の練習試合で自己最速の152キロを記録した武田高校のエース・谷岡楓太「ドラフト候補」としてメディアに取り上げられることも多くなってきた谷岡だが、中学時代は地元の軟式クラブチーム・安シニアの2番手投手。特段目立った存在ではなかったが、ある点が試合を観戦していた岡嵜の目に止まった。

「ベンチ前でキャッチボールをしている姿を見て、『あ、いいなあ』と思ったんです。リリースのときに手首が立っていたので、鍛えたら球速が伸びそうだな、と」

 思わぬ収穫に胸を躍らせた岡嵜は、谷岡がエースではないと聞き、心のなかでガッツポーズをつくった。

「進学校ということもあって、平日の練習時間は50分程度。学校のグラウンドも内野分のスペースしか使えない日が大半です。その環境、公式戦で大きな実績を残せていないこともあり、中学時代に主力として活躍している選手は来ることはほぼありません(苦笑)。それでも、中学生の試合を見ていると、控えのなかにも『これは……』という子が時々いる。谷岡が2番手と聞いた時は『よし!』と思いました」

 当時の最速は125キロ。「高校でも投手が続けられたらいいな」とだけ思っていた無名の右腕に届いた”投手”としての勧誘。武田にスポーツ推薦は存在しないため、一般入試を突破する必要があったが、迷わず受験を決めた。

 2017年4月、「投げられる」という希望を抱きながら入学した谷岡だったが、いきなり出鼻を挫かれる。監督の岡嵜から”投球禁止令”が出されたのだ。岡嵜がその意図を説明する。

「入部直後の練習で谷岡が走っている姿を見て、『これは絶対にケガするな』と直感したんです。動きにスムーズさがなく、大げさに言えば、子どもが初めて走りだしたようなぎこちなさがありました」