2018.10.23

斬新なトレーニング理論から誕生。
イチローも試してビックリのスパイク

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota

【連載】道具作りで球児を支える男たち ワールドウィング

「このオフは鳥取にあるトレーニング施設に訪問し、飛躍のきっかけを掴むつもりだ」

 毎年、プロ野球のシーズンオフに差し掛かると各スポーツ紙に踊る文面のひとつだ。この「鳥取にあるトレーニング施設」とは、鳥取県鳥取市にある「トレーニング研究施設ワールドウィング」を指す。

イチローをはじめ、多くのプロ野球選手が使用するワールドウィングのスパイク photo by Getty Images ワールドウィング最大の特徴が、選手や利用者から「小山先生」の愛称で親しまれる、小山裕史(こやま・やすし)代表が考案した「初動負荷理論 ®」に基づいた専用のカム・マシントレーニングを実施していることだ。

 プロ野球選手も足繁く通うトレーニング施設。当然、館内には”アスリート”然とした人々がひしめいている……、と思いきや、実際の風景は少々異なる。

「オフシーズンには、地元のご年配の方々とプロ野球選手が同じマシンを使う、なんてことも珍しくないですよ」

 担当スタッフがこう語るように、幅広い年齢層の利用者がトレーニングに励む。とりわけ午前中などの早い時間帯には熱心にマシントレーニングに取り組む高齢者の姿が多く見受けられる。この光景にこそ、ワールドウィングが掲げるトレーニング理論の”神髄”が現れている。

 多くのトレーニング理論において、「アスリートのパフォーマンス向上」に必要なトレーニングと、「健康増進」を目的とした運動は、ほぼ別物として扱われている。アスリートには高強度のウェイトトレーニングなどが必要だと思われているからだ。

 万人に適合するトレーニングは存在しない――。

 スポーツ界に根付いていたこの定説を覆したのが、初動負荷理論に基づいた「初動負荷トレーニング®」だ。

 通常、人間が運動動作に転じるときには、重力の影響もあり、関節と筋肉が「緊張状態」になりやすい。しかし初動負荷トレーニングでは、専用のマシンを用いることで、動作開始時に筋肉が緩んだ状態を作り出す。そこから、適切な負荷を筋肉に与えながら運動動作を繰り返すことで、緊張を伴わない身体活動を身につけることができる。

 本人の意識とは無関係に、何局面も先の筋肉の活動を予測した脳が身体の活動指令を送ることを「脳の先行指令(作動)」と呼ぶ。「脳~神経~筋肉」の伝達とその機能を促進することで、スポーツ選手は”しなやか”と評されるフォームや動きを手に入れることが可能となる。

 同時に、「手足の麻痺等の症状の改善にも効果がある」という研究結果も発表されているように、高齢者などのリハビリにも効果的だ。従来のトレーニングでは、筋緊張・機能障害を受けた筋肉には脳の先行指令が届かず、途中でブロックされるという(これが改善が遅れる原因)。このことから、先述のように、幅広い年齢層の利用者たちが施設を訪れている。