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「鉄人」という看板を掲げた職人。
グラブを全国に送る半端ない気持ち (3ページ目)

  • 井上幸太●文・撮影 text & photo by Inoue Kota

 サイト開設にあたり、先述の知人からホームページ名の候補をいくつか提示された。

「湯もみ屋」「湯もみ職人」......。だが、今ひとつ村上の心に響くものがなかった。

「『なかなかしっくりくるものがないなあ』と話していて、最後のほうに上がった案が『湯もみの鉄人』だったんです。『"鉄人"を自称するのは、どうなのかな』と思いましたが、名前負けするようならサイトを閉鎖する。それくらいの覚悟を持ってやろうと」

 開設直後の1週間はなんの音沙汰もなかったが、加工技術の高さが評判となり、次第に各地から注文が届くようになる。サイト開設から12年目の現在は、北海道から沖縄まで、文字通り"全国"にユーザーが広がった。「全国に散らばっているお客さんが、各地のグラウンドでグラブを使ってくれている。それが一番の宣伝になっています」と感謝を述べる。

 村上のグラブが全国で評判を呼んだ理由のひとつが、施される型の使いやすさだ。グラブの中心部分で捕球しやすいように加工し、両手での捕球はもちろん、シングルキャッチも容易に行なえる。

「『グラブの捕球面にボールが触れたら勝手に閉じる』というのが理想だと思っています。そこを軸に、お客さんの野球歴に応じて、ポケットを深くしたり、浅くしたりといったアレンジを行なっています。もっとも気をつけているのは"押し付けにならない"こと。『ここで捕ってほしい』というメッセージは込めますが、グラウンドで使う本人の好みやスタイルをないがしろにしない。それを常に頭に置いています」

 グラブに使用する革紐などの原材料にも強いこだわりを持っている。入荷する時点でグラブに通されている革紐に納得いかない場合は、自費で取り換えることも珍しくない。

「グラブに使う革紐やグリス(グラブの捕球面の裏側に塗る、接着の役割を果たす油)などの原材料は絶対に妥協しません。たとえ直接顔を合わせない場合でも、気持ちが入っていなかったり、手を抜いたりしたことは必ず見透かされると思っています。それと同じく、自分が責任を持って、真剣に取り組んだグラブからは、その思いと人柄が伝わるはず。そう思ってひとつひとつ丁寧に扱っています」

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