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時代遅れと言われても。金足農が
ブレずに貫いた「ザ・高校野球」戦法 (2ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 岡沢克郎●写真 photo by Okazawa Katsuro

 中泉一豊監督に「打つチームをつくろうと思ったことはないですか」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「バントは基本だと思います。ストライクをバントする。球が来るのを待ってとらえる。バッティングの練習にもつながると思っています。ホームランは最高の打球が結果として出たものであって、願っていません。それよりも強くて低い打球。野手に、心理的に嫌だなと思わせる打球を打ってほしいと願って指導しています」

 結果が出ない時期が続いても、時代遅れと言われても、今の流れに逆行していると言われても、ブレずに信じてやり通す。この夏、中泉監督は最後まで信念を貫いた。

 そうしてもうひとつ、"金足農旋風"に欠かせなかった要素がある。それは、地元の選手しかいない公立高校だったということだ。

 近年、高校野球界は私学優位の状況が続いている。今大会も代表56校中、公立校はわずか8校。また夏の甲子園で公立校の優勝は、2007年の佐賀北以来ない。ベスト4すら今回の金足農が2009年の県岐阜商以来、9年ぶりのことだった。昨春からの4大会で3度全国制覇を果たした大阪桐蔭だけではなく、甲子園常連の私学には全国から好選手が集まっている。そんななか、地元の子たちだけで勝ち上がったことも、金足農人気を後押しする要因になった。

 もともと、なぜ高校野球が人気になったかといえば、人には郷土愛があるからだ。母校でなくても、地元のチームに自然と肩入れしてしまう。それが全国47都道府県から代表が集う甲子園のよさだ。

 今大会から外野席が有料になってしまったが、昨年までは無料だった。それにも、ちゃんとした理由があった。

 昔、田舎から丁稚奉公で関西に出てきていた人たちが「夏休みに故郷に帰るお金はなくても、甲子園に行けば、タダで郷土代表のチームを応援できる」ようにするためだ。甲子園に行って、故郷のチームを見ながら地元を思い出す。たまたま隣り合った人と故郷の話題で盛り上がる。そんなことができるのが、高校野球人気の原点にあるのだ。

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