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中村奨成ともうひとりの覚醒。
「カチカチバット」が悩める球児を救う (4ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Kyodo News

 カウンタースイングを使って野球人生を一変させたのは中村だけではない。現在、JR東海(愛知)でプレーする津川智(つがわ・さとし)もそのひとりだ。

 中村の8年先輩にあたる広陵OBで、2010年に高校を卒業して近畿大に進んだが、鳴かず飛ばずのまま2年を終える。3年に進級するタイミングで、すでに選手としての引退がほぼ決まっていた。

 春のオープン戦で出場機会を与えられることになったものの、ラストチャンスというより"引退試合"の意味合いが強かった。刻々と迫る現役生活の終わりを前に、交流のあった野田が常々語っていたカウンタースイングの存在が津川の頭をよぎる。

 野田は当時のことをこう語る。

「なかなか結果が出ない状況が続いていたこともあって、智の引退が決まりかけていました。そんな時に『次のオープン戦が最後になると思います。悔いが残らないように、野田さんが常々言っていたことを教えてもらえませんか?』と電話がかかってきました」

 野田はその申し出を快く引き受け、限られた時間ではあるが、自身の理論を津川に伝えた。

そして迎えた"最後の花道"として用意されたオープン戦。ここで津川は、周囲を驚かせる活躍を見せ、「もう1試合いってみるか」と再びチャンスを掴む。その後も結果を出し続け、気づけば引退の話は立ち消えていた。

 その後は4番を任され、リーグ戦でベストナインを獲得。日本代表候補に選出されるまでに成長を遂げた。JR東海でも、今年4月に開催されたJABA日立市長杯の決勝で3本塁打を放つ活躍を見せ、MVPを受賞した。

 多くの選手の活躍に貢献しているカウンタースイングだが、「あくまで"きっかけ"にすぎない」と野田は謙遜する。

「奨成と智は本人の潜在能力があって、努力を重ねていたからこそ成長し、結果を残せた。特に奨成に関しては、中井先生の懐の深さが一番大きい。私の長男は3年間バリバリのレギュラーでもなかったのに、そんな選手の親父に意見を求めるなんて、普通の指導者だったら絶対できないこと。でも、『これのおかげ』と今でも言ってくれているのは、やっぱり嬉しいですね」

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