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中村奨成ともうひとりの覚醒。
「カチカチバット」が悩める球児を救う (3ページ目)

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • photo by Kyodo News

 野田が「カウンタースイングはありますか?」と尋ねると、すかさず中村が差し出した。大会期間中も練習で使おうとバットを持参していたのだ。その光景に、思わず野田は感動したという。

「『本当に使ってくれとったんや』と。しかも、甲子園にも持ってきてくれていて・・・・・・。開発者冥利に尽きますね」

 そこから甲子園開幕まで、カウンタースイングを振り込む日々が続いた。野田曰く、中村がカウンタースイングを完全に理解したのは、甲子園開幕の直前だったという。

「これまでも練習で使っていたけれど、『何となく』の域を出ていなかったと思う。そこから、惇一くんの教えで理解が進み、開幕まで時間のない状況でもう一度、『これで勝負するんだ』と目の色を変えて取り組んだ。それで状態も上向いていったと思います」

 野田も惇一副部長から送られてくる練習風景の動画を見ながら、開発者として適宜アドバイスを送った。

 そして迎えた中京大中京(愛知)との初戦。第3打席に逆方向への一発を放ち、第5打席にもライトポール際に叩き込む。この2本目を見た時に、"躍進"を直感したという。

「逆方向への打球がグングン伸びていく。この活躍を見て『とんでもないことになるぞ』と直感しました。特に、2本目のホームランを見たときは鳥肌が立ちましたね」

 野田の直感は的中した。中村は6本塁打を放って大会記録を樹立した。

 その中村の活躍により、『躍進を支えた秘密兵器』としてカウンタースイングが脚光を浴びた。注文の問い合わせが急増し、抱えていた在庫は瞬く間に底を尽いた。2013年から販売を開始して苦節5年。構想を含めれば10年を優に超える雌伏のときが報われると同時に、築き上げた理論の正しさが証明された。

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