駒大苫小牧→苫小牧駒大の快腕あらわる。2年後のドラフトで争奪戦へ (2ページ目)
そして、伊藤にはもうひとつ謎があった。それは伊藤のキャリアだ。実は伊藤は駒大苫小牧を卒業した後、東京の駒澤大に入学している。1年時からリーグ戦で登板機会を得ていたが、10月に退学。伊藤は当時をこう振り返る。
「自分は何ごとも1年1年、逆算して取り組んできました。失礼なんですけど、もし自分がこのチームで4年間やったときに、4年目のビジョンを描けませんでした。それなら環境を変えてやったほうがいいと決断しました」
どんな名門であろうと、どんなに育成に定評のあるチームであろうと、人間によって相性はある。たとえ合わない道を選んだとしても、次の一歩を踏み出せば道は続く。伊藤は北海道に戻り、2017年4月には苫小牧駒大に再入学。大学1年生をやり直すことになった。
大学野球部の世界は年齢以上に「入部した年」が重視される傾向がある。たとえ年齢は同じでも、一浪して入部すれば敬語を使うのが一般的。だが、苫小牧駒大には駒大苫小牧のOBが多く進んでいるため、伊藤の場合は高校時代の関係性が引き継がれた。つまり、1学年上の同年齢でも敬語を使うことなく、同学年の1歳年下からは「大海さん」と呼ばれているという。
気心の知れた仲間との再スタート。だが、伊藤はその1年を「今まで野球をやってきて一番つらい1年だった」と振り返る。それは、登録上の規定で1年間、公式戦に出場できなかったからだ。
「自分なりにチームのためにやっているつもりでも、どこか響いていないというか、貢献できていない感じはありました。そんななかでもしっかり取り組むことはつらかったですね」
視界が晴れない1年だったが、技術は明らかに進化していた。さまざまな角度からトレーニングと技術を見直し、体は身長175センチ、体重80キロと力強さを増した。そして投球フォームを探究していくなかで「無駄な力はいらない」という境地に達した。
公式戦出場解禁となった今春のリーグ戦、伊藤はある感覚を覚える。
「最終節にクイックモーションのときに力を抜いて投げたら、スピードがボンボン出たんです。体重移動だけ意識して、あとは指にかかれば速い球がいくことがわかりました」
2 / 3