広陵・中村奨成に「本当の仕事」をさせず。花咲徳栄は魔物を知っていた (5ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 決勝前日、岩井監督はこんなことを言っていた。

「(甲子園出場の間隔を)空けちゃいけないと思っているので、3年連続で出られたのは大きい。甲子園を知るには年数がかかりますから。知るというなかには魔物が何かということもある。風、銀傘、客、歓声、土、芝、ボールが飛ぶ......」

 この日の最大の魔物になり得たのは、観客の歓声だった。事実、スタメン発表のときも、打席に入るときも、中村の名前がコールされるたびにスタンドからは大きな拍手が起き、声援が飛んだ。もし、中村の一打が1本でもタイムリーになっていたら......。何が起きてもおかしくない雰囲気と状況だった。

「一番自信のある真っすぐを簡単に打たれて、こんなにすごいバッターはいないと思いました」

 花咲徳栄のエース・清水は中村のことを問われてこう言った。だが、いくら打たれても、本当の仕事さえさせなければいいのだ。スターは主役でなければいけない。脇役の働きならば、いくらでもさせて構わない。

 5打数3安打2二塁打。

 それでも、中村を"0打点"に抑えた花咲徳栄の完勝だった。

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