都立小平の120キロ右腕になぜ早実は苦しんだのか?

  • 菊地高弘●文・写真 text&photo by Kikuchi Takahiro

 三塁側スタンド最前列にいた女子マネージャーの甲高い声が、つかの間の静寂に包まれた球場内にこだました。

「コダイラ、勝てるよ〜!」

 ベンチ前で素振りをしていた部員たちがギョッと振り返り、スタンドに向かって「おい、(応援)団長はどうしたぁ!?」と軽口を叩く。すると、女子マネージャーの傍らから「必勝」と書かれた鉢巻きを巻いた野球部員が現れ、「これからやるよぉ」と、気の抜けた返しで応じる。フェンスを挟んで、グラウンドとスタンド一帯に笑顔が弾けた。

早実戦に先発し、好投した小平の1年生投手・太田勇人早実戦に先発し、好投した小平の1年生投手・太田勇人

 どこにでもありそうな、共学高校野球部の少しゆるめな光景。だが、これは試合開始前ではなく、9回までの攻防を終え、延長戦に入る直前のグラウンド整備中のやりとりだった。しかも、彼らの相手は今夏の甲子園でベスト4まで進んだ早稲田実業。お互い得点欄に「3」と表示されたスコアボードに、都立小平高校ナインの健闘ぶりが刻まれていた。

 八王子市民球場に集まった大勢の観衆の中で、試合開始前にこの展開を予想した人がどれほどいただろうか。10月10日、秋季東京都本大会1回戦、早稲田実業対小平。球場には早実のスーパー1年生・清宮幸太郎目当てのメディアも多数押しかけていた。

 シートノックでの動きを見る限り、レベル差は一目瞭然。大学生レベルの好フィールディングを披露するショート・金子銀佑(かねこ・ぎんすけ/2年)をはじめ、高レベルでまとまっている早実に対し、小平はぎこちない足運びの選手やスローイングにクセのある選手もいる。ノックを終えて三塁側ベンチ前に走って戻る選手たちの「バタバタバタ」という少し不格好な足音が場内に響いた。

1 / 6

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る