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【自転車】片山右京「レースに欠かせないマッサーという存在」 (3ページ目)

  • 西村章●構成・文・写真 text & photo by Nishimura Akira

「なので、栗村さんに、『まず全日本を見学させていただき、群馬サイクルスポーツセンターもレンタカーを借りて自腹で観戦に行くので、そこで選手の方々と面識を作り、本番に備えたいと思います。よろしくお願いします』と返信し、OKをいただきました」

 選手のマッサージ担当として初めて『参戦』したレースが、国内屈指の格式を持つTOJだったという事実に、森川は「知らないって怖いですよね」と苦笑する。

「栗村さんたちにしてみれば、『可もなく不可もなく』という手応えだったのかもしれませんが、我がことながら、素人のくせによく最後までやったなあ……と思いますよ」

 幸運だったのは、その『素人』に対して、世話好きのレース界のプロフェッショナルたちがあっさりと胸襟(きょうきん)を開いてくれたことだ。栗村氏は、自分自身がまだ知り合って間もない森川を、当時チームNIPPOの監督を務めていた大門宏氏に紹介した。

「忘れもしませんよ。伊豆の修善寺で行なわれた全日本選手権で、栗村さんがいきなり、『ちょっと、大門さーん』って呼びかけて、『この人ね、森川さんっていって、これからソワニョールをやりたいと言ってるんだけど、もし良かったら見習いか何かでイタリアに連れて行ってやってくれないですか?』って。僕は欧州に行きたいなんて、栗村さんに話をしたことも、頼んだこともないのに……。そしたら大門さんも、『うん、分かった』って、それでおしまい。それで、しばらくしたら大門さんから、『6月にイタリアに行くけど、来る?』っていうメールが来たんですよ。『航空券は自腹になるけど、住むところと食事は用意してあげるから』という内容で、『もちろん、それで充分です……というか、行ってもいいんですか?』というようなかんじで答え、アエロフロート(・ロシア航空)でローマ現地集合(笑)」

 このような経緯で、専門学校を卒業してたった数ヶ月後に、森川はイタリアに拠点を置くチームNIPPOのマッサージ担当者として、キャリアを積み重ねていくことになる――。

(次回に続く)

著者プロフィール

  • 片山右京

    片山右京 (かたやま・うきょう)

    1963年5月29日生まれ、神奈川県相模原市出身。1983年にFJ1600シリーズでレースデビューを果たし、1985年には全日本F3にステップアップ。1991年に全日本F3000シリーズチャンピオンとなる。その実績が認められて1992年、ラルースチームから日本人3人目のF1レギュラードライバーとして参戦。1993年にはティレルに移籍し、1994年の開幕戦ブラジルGPで5位に入賞して初ポイントを獲得。F1では1997年まで活動し、その後、ル・マン24時間耐久レースなどに参戦。一方、登山は幼いころから勤しんでおり、F1引退後はライフワークとして活動。キリマンジャロなど世界の名だたる山を登頂している。自転車はロードレースの選手として参加し始め、現在は自身の運営する「TeamUKYO」でチーム監督を務めている。

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