【新車のツボ34】
BMW5シリーズ 試乗レポート (2ページ目)
単純にドライバーズカーとしての運転しやすさや走りの面白さ、あるいは燃費でいえば、クルマは小さくて軽いほうが有利だし、運転席もダダッ広ければいい......というものでもない。しかし、そのいっぽうで"重さ=重厚感"なのも事実だし、そのうえ運転席が広々していれば「オレって高級車に乗ってんだなあ」と素直に思わせるのも、また否定できない。なんにつけても"効率"が最優先のイマドキは、こういう真正面から大きくて重いクルマはイイモノ感の"ツボ"を気持ちよく刺激する。
まあ、これで走りも重ったるくて鈍かったら興ざめだが、その昔から"ベンツより軽快であることが死活問題!?"のBMWは、そこだけは執念めいている。ステアリングレシオ(=ハンドルの回し量と前輪角度の関係)を走行中に可変させるアクティブ・ステアリングに後輪操舵までついていて、こんなビッグセダンが手首の返しだけでヒラヒラと曲がる。
まあ、そんなハイテクシャシーは少しばかり不自然なフィーリングに思えなくもないが、スピードが上がって、加減速にメリハリをつけるほど"体感ボディサイズ"がどんどん小さくなる味つけはちょっとしたBMWイリュージョンといえるかも。
そして条件がすべて整ってタイヤが滑るか滑らないか......なんてスリリングな速度領域になると、ほかのクルマが例外なくフロントがダラダラふくらむ安全(≒退屈)志向になるのに対して、5シリーズだけはリア側が張り出してさらにぐいぐい曲がる。この点は「クルマの安全性としていかがなものか?」としたり顔で優等生コメントをすることも可能だが、好事家(こうずか)目線で見れば「BMWの本音はここある」とニヤリとさせられるツボでもある。
5シリーズは「ゆっくり走れば重厚ドッシリ高級車、乗り手のテンションを上げれば軽快スポーツカー」という二面性を持つクルマだ。昭和風にいえば"ヒツジの皮をかぶったオオカミ"ってか? それも、なんとも深~い世界のヒツジオオカミである。
【スペック】
BMW 535i
全長×全幅×全高:4910×1860×1475mm
ホイールベース:2970mm
車両重量:1820kg
エンジン:直列6気筒DOHCターボ、2979cc
最高出力:306ps/5800rpm
最大トルク:400Nm/1200-5000rpm
変速機:8AT
JC08モード燃費:13.0km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:840万円
著者プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/
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