【新車のツボ35】ルノー・カングー 試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 ルノー・カングーは日本人の目には"なんだかワケのわからないカタチ"にしか見えないかもしれないが、本来の姿は商用車だ。日本でいうライトバンと小型ワンボックスを足して2で割ったみたいな存在で、ヨーロッパにいくと、郵便局や家電量販店の小口配達をはじめ、花屋さんや酒屋さんなどの小売業、そして電話工事に建築現場......と、会社やお店のロゴやカラーをまとった色とりどりのカングーが大量に走りまわっている。

 もっとも、商用車にはクルマの税制や荷物の規格など、それぞれの国や地域で独特のニーズがあるので、日本でのカングーは商用車ではなく"荷物がたっぷり積めるレジャーカー"として売られる。

 ルノーといえば、日本ではただでさえ少数派のフランス車のなかでも、もっとも販売台数の少ないブランドなのだが、このカングーにかぎっていえば、常に品薄状態の大人気モデルである。「カングー以外では満たされない」というマニアや好事家(こうずか)が確実に存在しているからだ。このカタチを見ればわかるとおり、日本独自のミニバンとも国際派のSUVともちがう、異国情緒たっぷりのカングーのかわりになれそうなクルマは、日本では見当たらない。

 全長は4.2m強とVWゴルフ程度の短さなのに、全幅が1.83m(!)......と日本ではありえない縦横比だが、それは欧州でよく使われるフォークリフト用荷物パレット(=通称ユーロパレット1.2m幅)を、そのまま積むために弾き出されたサイズである。室内空間はとにかく広大。同社のグランセニック(=ミニバン)をベースにしたフロアはとっても低いし、四角いボディを隅々までムダなく使っている。さすがは商用車......すなわちプロのための道具である。

 この巨大なトランク(と見上げるように高い天井)だけでも十分に魅力的なカングーだが、日本の一部マニアに熱狂的に支持される理由がもうひとつある。それは"走り"だ。サイズや価格を問わなければ、人や荷物をたくさん積めるクルマはいろいろあるが、運転好きのツボをここまでビンビンに刺激する荷物グルマはカングー以外にないだろう。

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著者プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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