検索

【新車のツボ35】
ルノー・カングー 試乗レポート (2ページ目)

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

  カングーのステアリングを一度でも握ると、そのステキな味わいと想定外の戦闘力に驚くはずである。そこには「背が高いわりには」とか「商用車としては」とか「200万円台前半という比較的安い価格なのに」......みたいなまわりくどい弁解はいっさい不要。これはもう絶品、いや傑作といってもいい。

 このボディサイズに105psの1.6Lエンジンだから、正直いって、カングーの動力性能は高くない。平坦な市街地で困るほど遅くはないけれど、とくに今回の4ATでは、のぼりの急こう配で徐々に失速するケースもなくはないし、高速追い越しのようなパンチ力が必要とされる場合には歯がゆいこともある(それがガマンできない場合は5MTを選べばいいが)。

 しかし、カングーはとにかくシャシーが速い。いったん速度を乗せれば......あるいはわずかでも下り勾配になれば、そこいらのスポーツカーを蹴散らすことも不可能ではない。

 高速では矢のように直進して、コーナーではこの背の高さからは想像しがたいほどに路面にへばりつく。タイヤも細っこいエコタイプで絶対グリップ力に見るべきものはないのに、どんな路面や曲率のカーブでもピタッと吸いつく。ステアリングは正確で接地感も濃厚に伝わってくる安心感も高い。もちろんサスペンションにもハイテクは皆無。

 いやホント、こんな巨大なサイコロみたいな背高グルマが、なにをどうすれば、こんなに乗り心地よく、山道で速く、そして美味な手応えが醸成できるのか......と不思議でならない。また、視界も車両感覚もバツグンで、意外なほど小回りもきく(最小回転半径5.35m)から、日本の道路事情でもあつかいやすい。

 ヨーロッパには荒れた路面の古い道も多く、旧市街は入り組んだ迷路のようで、郊外路や高速道路の平均速度は高い。カングーは、そういう過酷なところで"プロが生活と生命とをあずけられる道具"としてつくられている。クルマをクルマらしくコキ使いたい本当のクルマ好き、運転好きなら、カングーに乗って目からウロコが落ちること間違いなしである。

【スペック】
ルノー・カングー
全長×全幅×全高:4215×1830×1810mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1460kg
エンジン:直列4気筒DOHC、1598cc
最高出力:105ps/5750rpm
最大トルク:148Nm/3750rpm
変速機:4AT
JC08モード燃費:――km/L
乗車定員:5名
車両本体価格:229.8万円

著者プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る