上村彩子アナが語る北京五輪取材の感動。「ボロボロ泣いた」というフィギュアスケート選手の演技とは (3ページ目)

  • 山本雷太●撮影 photo by Yamamoto Raita

"特殊な空間"を生み出した羽生結弦の挑戦

 続いて、羽生選手の「4回転アクセル」への挑戦。私も現地で取材していたのですが、羽生選手のフリープログラムが始まる前、会場はざわついていました。「ゆづるー!」と叫ぶ観客がいたり、おそらく中国語だったと思うんですけど、可愛い声で応援するお子さんがいたりと、少し温かいムードも漂っていました。ですが、羽生選手がリンクに入った瞬間、場内がピリッとして、空気が変わるのを感じました。

 演技が始まると、4回転アクセルを跳ぶ姿を動画に収めようと、たくさんの人がスマートフォンやカメラを向けていました。そしてジャンプを飛び、転倒してしまった瞬間、小さい声で「あぁ......」と残念がる人もいましたが、どちらかというと「挑戦を見られてよかった」という表情をしている人がほとんどでした。

 というのもやはり、羽生選手は4年前から「4回転アクセルを跳ぶ」と明言していましたし、ここまでの挑戦を包み隠さず私たちに見せてくれていた。なので、観客たちは「成功してほしい」と願いながらも、このジャンプの難しさも理解していた。また、体への負担を考えると心配な気持ちもあり、複雑な感情での応援だったと思うので、あの一瞬の間は、普通の選手とファンとの関係性では生まれない特殊な状況になっていたんです。そういう空間を作り出せるのは、羽生選手だからこそだと感じています。

 本人は「やりきった」と言っていたので、引退の2文字が頭をよぎる方も多いと思いますが、おそらくきれいに4回転アクセルを跳ぶまでは、きっと彼の挑戦は続くのかなと個人的には思っています。

 ただ、演技直後にグリーンルームに入ると、すぐにアイシングで足首を冷やし、しきりにすねのあたりをポンポンと触っていたので、本当に満身創痍で戦い続けていたのでしょう。なのでまずはしっかりと足を治してもらって、また、リンク上で夢の続きを見せてもらえたらうれしいですね。

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